エスキモーの国から

9話 エスキモーとまちがえられた話

1,455字 約3分 2022年3月29日 公開

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 外国を旅行すると、私などもいろいろな国の人間にまちがえられるが、そのうちの傑作は、エスキモーにまちがえられた話である。

 昨年の夏、二度目のグリーンランド観測で、大分様子もわかり、ベース・キャンプにいるときは、よく近くのチューレの町へ遊びに行った。

 そこの将校集会所にバーがあるので、仲間の連中と、ときどき気ばらしに出かけたわけである。

 ところで或る晩、カウンターのところで、二、三杯のんでいたら、隣りに腰かけていた空軍の将校が、話しかけてきた。二言三言何かいっているのであるが、どうもよく話がわからない。仕方なく生返事をしていたら、その男が、「君はグリーンランダーだろう」という。それでやっとわかったのであるが、エスキモーとまちがえていたのである。

 グリーンランドは、デンマークの領土になっているが、住民のほとんどはエスキモーである。もっとも数は少ないので、日本の六倍半もあるこの島に、全部で二万数千人しかいない。

 このエスキモーは、昔カナダの北氷洋岸から流れて来たもので、現在デンマークの政府は、この連中のことを公けには、エスキモーといわず、グリーンランダーと呼んでいるのである。統治政策の一つであろう。

 エスキモーとまちがえられたのは、さすがに初めてであって、このときは一寸びっくりしたが、考えてみれば、ちっとも不思議なことではない。

 それほどエスキモーは、日本人とよく似ているのである。

 だいたい日本人の考えているエスキモーは、あざらしの皮を着て、氷の家に住んでいるエスキモーである。しかしこういう風俗は、現在では、ほとんど見られない。ごく北の方に、わずかにその名残りがのこっているくらいである。もっとも氷の家というのは、昔でも、あざらし狩に行ったときの臨時の住居で、普段は泥炭の家に住んでいたのである。

 デンマークの外務省が出版した「グリーンランド」という本があるが、五、六名の専門家が分担して書いたもので、小冊子ながら、非常に要領よくまとめられた、正統的なエスキモーの紹介書である。以下の話は、この本の受け売りであるが、現在のエスキモーの中には、居間で安楽椅子にひっくり返って、テレビを見ながら、パイプをくゆらしている連中もいる。

 この本の中には、その写真も出ている。エスキモーは、非常に器用で、また頭もよく一寸教えると、何でもすぐおぼえてしまう。ラジオの技師もいるし、モーターの修繕もする。エスキモーとまちがえられたといって、すぐ氷の家を連想するのは、「日本には汽車があるか」ときく外国人と似たていどの認識である。

 それよりも驚いたのは、この本の中にあるエスキモーの風俗写真である。その中に出てくる人たちは、裏日本の農村や漁村で、私たちが子供の頃に毎日見ていたどこそこのおじさんやおばさんと全く同じ顔をして、同じような服装をしている。

 赤ん坊を背中にせおって、おんぶばんてんをはおった若い母の写真など、黙って展覧会に出したら、誰でも日本の農村風俗と思って見逃がすにちがいない。

 顔はうりざね型で日本式の美人である。

 老人たちも潮風にきたえられた顔の皮膚に、深いしわが刻み込まれていて、北海道や東北の漁村で見られる老人たちと、全く同じ顔をしている。もじりのような着物に、ズボンをつけて、ゴム長をはいた姿など、そっくりである。

 ヒマラヤの住民に、日本人の祖先を求めるよりも、エスキモーに求めた方が早道かもしれない。

 それで私をエスキモーにまちがえた男は、なかなか眼が高いと内心感心しているわけである。

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