8話 ポール・キャット
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先日、航空に関する或る集まりで、日本の航空輸送の将来についての話が出たことがある。問題は鉄道との競争にある。
国鉄が技術的に近年躍進をつづけているので、たとえば新東海道線が完成された暁には、東京大阪間の航空便は、あまり意味がなくなる。これは将来は、福岡までのびるかもしれない。
こういう悲観的な考え方は、現状をそのまま先にのばしたところからくるのであって、原則的にみて、空中を行く方が、地表を走るよりも、時間的にはずっと有利なはずである。
それが或る場合には、あまり効果を示さないのは、都心から飛行場までの輸送の問題が等閑視されているからである。
この問題と限らず、いわゆる「小運搬」の問題が後廻しにされがちであることは、何処でも同様である。極端な例になるが、アメリカからグリーンランドまでの旅行は、この頃は十二時間の飛行ですむ。
しかしそれはフィラデルフィア郊外の飛行場から、グリーンランドのチューレまでの話である。
私たちは、そこから氷冠上を二百二十マイル奥地へはいったところにある観測地点へ行くのであるが、その旅行は、昨年までは、橇列車であった。絶好の気象条件のときで、まる三日間、一寸天気がくずれると、五昼夜かかった。
札幌を出てから、本当に飛行機が千歳をとび立つまでの時間は、千歳仙台間の時間とほぼ等しいが、それよりももっと悪かったわけである。
ところが今年きてみると、わずか一年のうちに、事情がすっかり変っていた。貨物はやはり橇列車で輸送しているが、人間の方は、ポール・キャットと呼ばれる新しい雪上車で運ぶことになっていた。
それだと一昼夜以内で行けるのである。著しい進歩である。
ポール・キャットは、カタピラ式の軽トラクターが、やはりカタピラ式の客車を一輛ひっぱって走る型のもので、雪のよいところは時速十二マイル、平均して十マイルの時速で走るようになっている。雪上車は非常にゆれるもので、平均時速十マイルを出して、そう大して動揺しないのは、たいしたことである。昔の汽車くらいの性能であるから、極寒地の雪上輸送の問題は、一応片づいたといってよい。灸所は、客車もカタピラにした点にあるのではないかと思う。
こういう場合、従来は橇付にしたのであるが、それだと動揺がひどくて、人間が参ってしまう。
この例に限らず、最近雪の処理に関する技術は、著しい進歩をとげている。積雪地の飛行場では、滑走路及び誘導路の除雪が、一番の問題であるが、それも実際に役に立たせるためには、迅速にやる必要がある。少し立て込んだ飛行場では、数分毎に大型機が離着陸しているからである。
それについて、昨年スイスでつくった除雪車の中には、ロータリー式で、一回の除雪の幅が五メートル、一時間の除雪量は、公称八千トン、五千トンまでは確実に保証するというのがある。それだと相当な大飛行場でも、三十分くらいで除雪されてしまう。
驚いた話である。
こういう話は、日本でも雪の降らない土地の人には、興味がないかもしれない。しかし飛行場では、除雪可能だけでは駄目で、迅速に除雪することが必要である。輸送では「小運搬」が大切である。こういう点、すなわち第二近似まで行って、科学技術が本当に役に立つものであり、世界の現状はそこまできているという点は、一般に参考になる話であろう。