3話 3
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翌朝、ケロリとした顔をして、久助は主人の前へ呼び出された。
主人は、人間の性が如何に善であるかを、諄々として説いてやった。皆んな一時の出来心で悪い事をするのだ、お前だってそうだろう、と云った。
その通りです、と久助がぴょこんと頭を下げた。眼の中に一杯涙を溜めていた。
そうだろう、そうだろう、私しゃお前を信じている。お前は私の信頼を決して裏切るような男じゃない。その証拠をお前はきっと見せてくれるだろう。――そして主人は日頃読んでいる、トルストイの「ポリクシュカ」と云う小説を思い出した。
彼は立上って、やがて帳場の金庫から財布を持って出て来た。中から十円札を三十枚数えると、それを久助に渡して、云った。それじゃわしは、お前に今日、大切な用件を頼むよ。昼から、孟宗の荷を三島へ出すから、お前が従いて行って、いつもの丸久へ売り渡し、その代金と、それからこの三百円を一緒に、三島の銀行へ預けて来ておくれ。良いかい?
主人は出来るだけ優しい言葉を使った。そうやって久助の良心の中に、しっかり監視をつけてやった。
久助は涙をぽろぽろと流し乍ら、かしこまりましたと云った。主人は、これで良い、と思った。これでこの男も真人間になれる。