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1話 鑑定

1,832字 約4分 2011年9月9日 公開

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 牛屋(うしや)手間取(てまとり)牛切(ぎうき)りの(わか)いもの、一婦(いつぷ)(めと)る、と()ふのがはじまり。(やつ)女房(にようばう)にありついたは()つけものであるが、()(をんな)奇醜(きしう))とある。たゞ(みにく)いのさへ、奇醜(きしう)(よわ)つた、(なに)(しう)()がるに(あた)らぬ。

 本文(ほんもん)()つて(いは)く、蓬髮(ほうはつ)歴齒(れきし)睇鼻(ていび)深目(しんもく)、お(たがひ)熟字(じゆくじ)でだけお知己(ちかづき)の、沈魚(ちんぎよ)落雁(らくがん)閉月(へいげつ)羞花(しうくわ)(うら)()つて、これぢや縮毛(ちゞれつけ)亂杭齒(らんぐひば)(はな)ひしやげの、どんぐり()で、面疱(にきび)一面(いちめん)、いや、()(いろ)(くろ)(こと)、ばかりで()い。(かた)(くび)より(たか)(そび)えて、(ぞく)引傾(ひきかたが)りと()代物(しろもの)(あを)(ぶく)れの(はら)(おほい)なる(うり)(ごと)しで、一尺(いつしやく)(あま)りの(たな)(ちり)(あまつさ)(びつこ)奈何(いかん)

 これが(また)(だい)のおめかしと()て、當世風(たうせいふう)廂髮(ひさしがみ)白粉(おしろい)をべた/\()る。()るもの、莫不辟易(へきえきせざるなし)(あに)それ辟易(へきえき)せざらんと(ほつ)するも()んや。

 (しかう)して、(しか)してである。(くだん)牛切(ぎうきり)(あさ)から閉籠(とぢこも)つて、友達(ともだち)づきあひも(ろく)にせぬ。

 一日(いちにも)(ばう)()つて、田圃(たんぼ)(かは)(みづ)()んで()(ところ)を、見懸(みか)けた(むら)(わか)いものが、ドンと(ひと)(かた)をくらはすと、(ひしや)げたやうにのめらうとする。(あわ)てて、頸首(えりくび)引掴(ひツつか)んで、

()きてるかい、」

「へゝゝ。」

確乎(しつかり)しろ。」

「へゝゝ、おめでたう、へゝゝへゝ。」

()加減(かげん)にしねえな。おい、串戲(じようだん)ぢやねえ。お(まへ)(まへ)だがね、惡女(あくぢよ)深情(ふかなさけ)つてのを通越(とほりこ)して()るから、(おに)()はれやしねえかツて、(みな)友達(ともだち)(あん)じて()るんだ。お(まへ)(まへ)だがね、おい、よく辛抱(しんばう)して()るぢやねえか。」

「へゝゝ。」

「あれ、矢張(やつぱ)恐悦(きようえつ)して()ら、()うかしてるんぢやねえかい。」

(わし)も、はあ、()うかして()るでなからうかと(おも)ふだよ。()いてくんろさ。女房(にようばう)がと()ふと、あの容色(きりやう)だ。まあ、へい、(なん)たら因縁(いんねん)一所(いつしよ)()つたづら、と斷念(あきら)めて、()押瞑(おツつぶ)つた祝言(しうげん)(おも)へ。」

「うむ、(おも)ふよ。(とも)だちが(さつ)して()るよ。」

(ところ)がだあ、へゝゝ、()(ばん)からお(まへ)(あかり)(くら)くすると、ふつと(をんな)身體(からだ)月明(つきあかり)がさしたやうに()つて、第一(だいいち)な、(いろ)眞白(まつしろ)()るのに、()(さめ)るだ。」

 於稀帷中微燈閃鑠之際則殊見麗人(きゐのうちにびとうのせんしやくするときすなはちとくにれいじんをみる)である。

蛾眉巧笑頬多姿(がびかうせうくわいけふたし)纖腰一握肌理細膩(せんえういちあくきりさいじ)。」

 と一息(ひといき)()つて、ニヤ/\。

「おまけにお(まへ)小屋(こや)一杯(いつぱい)蘭麝(らんじや)(かをり)(ぷん)とする。()(うつく)しい(こと)()つたら、不啻毛飛燕(まうしやうひえんもたゞならず)。」

 と()ふ、牛切(ぎうき)りの媽々(かゝあ)をたとへもあらうに、毛飛燕(まうしやうひえん)(すさま)じい、僭上(せんじやう)(いた)りであるが、(なに)(べつ)美婦(びふ)()めるに遠慮(ゑんりよ)()らぬ。其處(そこ)で、

 不禁神骨之倶解也(しんこつのともにとくるをきんぜざるなり)。である。(これ)()(おそろ)しい。

(わし)(とん)()せねえだ、(ところ)で、當人(たうにん)(をんな)(たづ)ねた。」

女房(かみさん)(おこ)つたらう、」

(なん)ちゆツてな。」

「だつてお(まへ)、お(まへ)(まへ)だが、あの(つら)をつかめえて、牛切小町(うしきりこまち)なんて、お(まへ)(おこ)らうぢやねえか。」

「うんね、(おこ)らねえ。」

「はてな。」

 とばかりに、苦笑(にがわらひ)

(おこ)らねえだ。が、(なに)もはあ、自分(じぶん)では()らねえちゆうだ。(わし)も、あれよ、(ねん)のために、(あかり)をくわんと(あか)るくして、()()らかいて()た。」

氣障(きざ)(やつ)だぜ。」

()うすると、矢張(やは)り、あの、二目(ふため)とは()られねえのよ。」

其處(そこ)相場(さうば)ぢやあるまいか。」

(あかり)()すと(また)小町(こまち)()る、いや、()(うつく)しい(こと)()つたら。」

 とごくりと()()み、

「へゝゝ、(くち)()ふやうたものではねえ。以是愛之而忘其醜(これをもつてこれをあいしそのしうをわする)。」と()ふ。

 聞者不信(きくものしんぜず)(たれ)(これ)(しん)じまい。

「や、お婿(むこ)さん。」

無事(ぶじ)か。」

 などと、(わか)いものが其處(そこ)へぞろ/\()()た。で、()(はなし)(わら)ひながら(つた)へると、馬鹿笑(ばかわら)ひの高笑(たかわら)ひで、散々(さん/″\)(ひや)かしつける。

(きつね)だ、(きつね)だ。」

()(かは)垢離(こり)()れ。」

南無阿彌陀佛(なむまいだ)。」

 と(どつ)(はや)す。

 屠者(としや)向腹(むかぱら)()て、(かつ)(おこ)つて、

(ため)して()ろ。」

 こゝで、(くち)あけに、最初(さいしよ)(わか)いものが、()(ばん)牛切(ぎうきり)小屋(こや)(しの)ぶ。

 御亭主(ごていしゆ)戸外(おもて)(つき)あかりに、のつそりと()つて()て、

()うだあ、」

 (わか)(しゆ)(ひたひ)(たゝ)いて、

(えら)い、」と()つて、お叩頭(じぎ)をして、

(ちが)ひなし。」

「それ、()うだあ。」

 と悦喜(えつき)顏色(がんしよく)

 於是(こゝにおいて)村内(そんない)惡少(あくせう)(たれ)(かれ)()(ひと)ツ、(馬鹿(ばか)(こと)を)とけなしつける。

(ため)して()ろ。」

「トおいでなすつた、合點(がつてん)だ。」

 亭主(ていしゆ)月夜(つきよ)にのそりと()つて、

()うだあ。」

(えら)い。」と叩頭(おじぎ)(かへ)る。(いやしく)(げん)にして(しん)ぜられざらんか。屠者便令與宿焉(としやすなはちともにしゆくせしむ)幾遍一邑不啻名娼矣(ほとんどいちいふあまねくめいしやうもたゞならず)

 一夜(いちや)(めづら)しく、(よひ)(うち)から亭主(ていしゆ)()ると、小屋(こや)(すみ)(くら)がりに、(あや)しき(こゑ)で、

馬鹿(ばか)め、(なんぢ)不便(ふびん)さに、(をんな)(かたち)()へて()つたに、何事(なにごと)ぞ、()爲體(ていたらく)は。今去矣(さらばだあ)。」

 と(にべ)もなく、一喝(いつかつ)をしたかと(おも)ふと、仙人(せんにん)どのと(おぼ)しき姿(すがた)(まど)から()んで(くも)(なか)(やま)(のぼ)らせたまひけり。

 (とき)()帷中(ゐちう)(をんな)()れば、(ゑん)としておでこの醜態(しうたい)明白(めいはく)成畢(なりをはん)ぬ。

 屠者(としや)()(あま)りの(みにく)さに、一夜(いちや)(そば)我慢(がまん)()らず、田圃(たんぼ)をすた/\()げたとかや。

明治四十四年三月

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