28話 霊魂不滅論 第二八回 霊魂不滅説の人心を強くすること
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霊魂不滅説の実際に及ぼす影響は、前述のごとく人に満足を与うるにとどまらず、人心を強くするにあずかりて大いに力ありと思います。人間は一生五十年の浮き橋を渡るに、気の強いように見えて案外弱いものである。例えば、一事業をなさんとするに、ひとたび失敗に会すれば、ただちに落胆して再び着手する勇気がなくなり、ついに永久の失敗となりて終わります。これ、人に忍耐力の欠けるによるというも、その忍耐力を起こすところの根本があるべき道理である。すなわち、われわれの心中に霊魂不滅の決心ありて、この肉体はいかになろうとも、精神だけは決して朽ちぬと確信することが、大いに忍耐力を鼓舞するに相違ない。ことに善悪因果説が霊魂不滅説に結合して、一層人意を強くするに至ります。ゆえに、霊魂不滅は忍耐力に大いに関係ありと考えてよろしい。したがって、その説の百般の事業に関係あることが分かりましょう。
人が災難、不幸にあって失望せざるも、やはり霊魂不滅説が大いに関係することは、前すでに述べたるが、病気に当たりて人意を強くするに、また大いに助けとなるは疑いありませぬ。とかく人は病気を恐るるものにて、その恐るるは必ずしも、疼痛のたえ難きにあらず、また貧苦のためにもあらず、ただ病気によりてその寿を短縮するかを恐れます。換言すれば、死ぬことを恐るるからであります。このように病気を恐るれば、かえって病気を重くし、寿命を短縮するよりほかなきは明らかなれども、その心に信ずるところがないと、到底その恐れを除くことはむつかしい。その信ずるところの中では、霊魂不滅を信ずることが最も力を与うるに相違ない。もし、人間がこの一生をもって限りとし、死後、不滅の門に入ることができぬとなったなら、五十年のろうそくが消えんとするほど心細きものはありますまい。なかなか安心どころか、大迷いに迷わねばならぬ。これに反して霊魂不滅と知れば、その死に就くは、毎夜眠りに就くと同じく、決して失望も落胆もするに及ばず、安心しておることができます。ゆえに、病はなにほど重くなろうとも、平気の平左衛門で、少しも迷い出しもせず、また恐れもいたしませぬ。したがって病気も軽くなり、早く平癒するようになります。
かくして、霊魂不滅説は人に決死の覚悟を与うるに最も妙であります。ゆえに、軍人教育にはその精神を固むる方、これよりよきはありますまい。わが国も将来、欧米の強国と一大戦端を開くことなしとは申されませぬが、その準備には国民全体にこの精神を与うること最も肝要であります。その他なにごとをするにも、決死の精神ほど大切のものはありませぬ。しかして、その精神は霊魂不滅説より起こるとすれば、その説こそ実に国家の独立を保護するの金城鉄壁にして、富国強兵の基礎と申してよろしい。今やようやく内外多事に向かい、東洋の天地も風雲日に増し急ならんとする折柄なれば、国民挙げて国家のために一身を犠牲にする覚悟を養わねばなりませぬ。拙者などは、今日なお微力の一寒生同様のものなれども、国家将来の廃興存亡に関しては、いささか杞憂を抱くものなれば、もっぱら霊魂不滅の理を講究して、これを国民に伝え、もって精神上の砲台を建設せんことを望むものであります。