唐模様

3話 愁粧

841字 約2分 2011年9月9日 公開

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 むかし(そう)武帝(ぶてい)(むすめ)壽陽(じゆやう)麗姫(れいき)庭園(ていゑん)()する(とき)(うめ)(はな)()りて一片(ひとひら)()(かんばせ)(かゝ)る。()(おもかげ)また(たぐ)ふべきものなかりしより、當時(たうじ)宮女(きうぢよ)(みな)(あらそ)つて輕粉(けいふん)(もつ)(かほ)白梅(しらうめ)(はな)(ゑが)く、(しよう)して梅花粧(ばいくわしやう)()ふ。

 (ずゐ)文帝(ぶんてい)宮中(きうちう)には、桃花(たうくわ)(よそほひ)あり。()(おもむき)相似(あひに)たるもの(なり)(みな)(いろ)(てら)(ちよう)()りて、(きみ)(こゝろ)(かたむ)けんとする所以(ゆゑん)(あへ)歎美(たんび)すべきにあらずと(いへど)も、(しか)れども()(こゝろざし)可憐也(かれんなり)

 司馬相如(しばさうじよ)(つま)卓文君(たくぶんくん)は、(まゆ)(ゑが)きて(みどり)なること(あたか)遠山(とほやま)(かす)める(ごと)し、()づけて遠山(ゑんざん)(まゆ)()ふ。()武帝(ぶてい)宮人(きうじん)(まゆ)調(とゝの)ふるに青黛(せいたい)()つてす、いづれも(よそほ)ふに不可(ふか)とせず。(しか)るに南方(なんぱう)文帝(ぶんてい)元嘉(げんか)年中(ねんちう)京洛(きやうらく)婦女子(ふぢよし)(みな)(こと/″\)愁眉(しうび)泣粧(きふしやう)墮馬髻(だばきつ)折要歩(せつえうほ)齲齒笑(うしせう)をなし、貴賤(きせん)尊卑(そんぴ)(たがひ)()(およ)ばざるを(はぢ)とせり。愁眉(しうび)(すなは)(まゆ)(つく)ること町内(ちやうない)若旦那(わかだんな)(ごと)く、(ほそ)(あた)りつけて、(まが)()(すく)むを()ふ。泣粧(きふしやう)()(した)にのみ(うす)白粉(おしろい)()一刷(ひとはけ)して、ぐいと(ぬぐ)()く。()(さま)(なみだ)にうるむが(ごと)し。墮馬髻(だばきつ)のものたるや、がつくり島田(しまだ)()ふに(おな)じ。(あん)ずるに、(つぶし)()ひ、藝子(げいこ)()(なげ)()ひ、(やつこ)はた文金(ぶんきん)()島田髷(しまだまげ)のがつくりと()るは、非常(ひじやう)(とき)のみ。(しか)るを、元嘉(げんか)京洛(きやうらく)貴婦人(きふじん)才媛(さいゑん)は、平時(へいじ)(くだん)墮馬髻(だばきつ)()ふ。たとへば(まげ)片潰(かたつぶ)して(なび)(つく)りて(うま)より()ちて(もとゞり)横状(よこざま)(くづ)れたる(なり)折要歩(せつえうほ)は、(そつ)拔足(ぬきあし)するが(ごと)く、歩行(あゆむ)(わざ)(なや)むを()ふ、(ざつ)癪持(しやくもち)姿(すがた)なり。齲齒笑(うしせう)(おも)はせぶりにて、微笑(ほゝゑ)(とき)(つね)齲齒(むしば)(いた)みに弱々(よわ/\)打顰(うちひそ)(いろ)(まじ)へたるを()ふ。これなん當時(たうじ)國色(こくしよく)大將軍梁冀(たいしやうぐんりやうき)(つま)孫壽夫人(そんじゆふじん)一流(いちりう)媚態(びたい)より()でて、天下(てんか)(あまね)く、狹土(けふど)邊鄙(へんぴ)(およ)びたる(なり)(いま)(いく)ほどもあらざりき、天下(てんか)(おほい)(みだ)れて、敵軍(てきぐん)京師(けいし)殺倒(さつたう)し、()婦女子(ふぢよし)(とら)へて(ほしいまゝ)凌辱(りようじよく)(くは)ふ。()(とき)恥辱(はぢ)恐怖(おそれ)とに(よわ)きものの(こゑ)をも得立(えた)てず、(いた)み、(かなし)み、()ける(かたち)(よそほ)はざるに愁眉(しうび)泣粧(きふしやう)柳腰(りうえう)(むち)(くじ)けては折要歩(せつえうほ)(くる)しみ、金釵(きんさい)()()しては墮馬髻(だばきつ)顯實(けんじつ)す。(いさゝか)()平常(ふだん)化粧(けしやう)(たが)ふことなかりしとぞ。(いま)()庇髮(ひさしがみ)、あの(おびたゞ)しく(かほ)(みだ)れたる(びん)のほつれは如何(いかに)(はた)してこれ(なん)(てう)をなすものぞ。

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