4話 捷術
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隋の沈光字は總持、煬帝に事へて天下第一驍捷の達人たり。帝はじめ禪定寺を建立する時、幡を立つるに竿の高さ十餘丈。然るに大風忽ち起りて幡の曳綱頂より斷れて落ちぬ。これを繋がんとするに其の大なる旗竿を倒さずしては如何ともなし難し。これを倒さんは不祥なりとて、仰いで評議區々なり。沈光これを見て笑つて曰く、仔細なしと。太綱の一端を前齒に銜へてする/\と竿を上りて直に龍頭に至る。蒼空に人の點あり、飄々として風に吹かる。これ尚ほ奇とするに足らず。其の綱を透し果つるや、筋斗を打ち、飜然と飛んで、土に掌をつくと齊しく、眞倒にひよい/\と行くこと十餘歩にして、けろりと留まる。觀るもの驚歎せざるはなし。寺僧と時人と、ともに、沈光を呼んで、肉飛仙と云ふ。
後に煬帝遼東を攻むる時、梯子を造りて敵の城中を瞰下す。高さ正に十五丈。沈光其の尖端に攀ぢて賊と戰うて十數人を斬る。城兵這奴憎きものの振舞かなとて、競懸りて半ばより、梯子を折く。沈光頂よりひつくりかへりざまに梯子を控へたる綱を握り、中空より一たび跳返りて劍を揮ふと云へり。それ飛燕は細身にしてよく掌中に舞ふ、絶代の佳人たり。沈光は男兒のために氣を吐くものか。