雨の玉川心中 01 太宰治との愛と死のノート

31話 八月三十一日

611字 約1分 2017年6月19日 公開

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 早川さんのお話と、野原さんのお話に一喜一憂していたところ、今朝八時半頃「奥名さん」の声に飛びおきる。太宰さんだ。蒼い顔して、疲れた御様子で。奥様方が御留守になったので、やめようかと思ったけど、やっぱり呼びにきたよ、と仰言る。

「じゃ、直ぐね」とそこそこにお帰り。早速仕度をして御訪ねさせて頂く。はじめてみるお家の中。お互いに一寸(ちっと)も悲しそうな顔もせず、相変わらずの、サッちゃんと太宰さん。正樹さんが、よちよちと玩具を持って入ってみえる。ヴィヨンの妻の中にある作家の悩みを思い起こさせるようなお子様。失礼かと思ったけど、太宰さんのお子さんを抱えてみたい心が湧いて「抱かせて下さいませんか」と申し上げたら、「いや、これは孤独を楽しんでいる子なんですよ」との御返事。親心としてどんなに悲しいことだろう、と思ったら涙が湧いてきてしまった。

 九時頃から二時まで御話する。午前十時と午後一時には、お互いの心が一致するような気がして、お互いがお互いを思っている以上に恋い合うよう致しましょうと御約束する。おにぎりを作って下さったり、果物を出して下さったり、御本を頂いたり、御写真を拝見したり。まるで今日は夢のような日だった。

「しっかりしなきゃあ、駄目よ。しっかりしてね」「しっかりするよ」「早くいけよ」

――ああ私達にしか通じない言葉。十二日を楽しみに、病人くさい臭いなどなくなっていますように、十月には御一緒に旅をしましょう。本当に――。

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