3話 三
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やがて、お花はだんまりで立上ると、こそこそと、どこかへ出て行った。はばかりとは方角が違う。どうやら納戸らしい。宗三自身は見る影もない腰弁だけれど、家丈けは、親父が御家人だったので、古いが手広な納戸なんていうものもある。じゃあ箪笥へでもしまう積りかな、箪笥といっても、幾つもあるから後になっては分らない。兎も角、お花の跡をつけて見るに如くはない。で、宗三、そっと立上ると、女房のあとから、影の様について行った。
案の定納戸だ。今這入ったばかりのところで、まだ箪笥の錠前をガチャガチャ云わせている。一体、どの箪笥の、どの抽出へしまうのかと、幸の障子の破れに目を当てて、そっと覗いて見ると、何しろ二間兼用の五燭の電燈だから、それに障子の穴がやっと片目丈の大きさなので、見当をつけるのが、なかなか骨だったが、でも、兎も角、入口から云って正面の箪笥の上の、小抽斗の左の端ということ丈は分った。お花の後姿は、そこへ一物を投げ込むと、ビシャンとしめて大急ぎでこちらへやって来そうな様子。
見られては一大事と、宗三、元の茶の間へ逃げ帰ると、敷島を一本、つけるが早いか口へ持って行って、スパリスパリとすました。
それから、御両人睨み合いよろしくあって、だが、そうしていても際限がないので、どちらが口を切るともなく、砂をかむ様な世間話を二口三口取交している内に、やがて九時だ、宗三思惑があるのでいつもよりも少し早いのだが、早速床につく。
さて、その真夜中、お花の寝息を伺って、これなら大丈夫と思ったか、宗三むっくり起上って、寝巻の前をかき合せると、ソロリソロリと寝間の外へ忍び出した。行先は云うまでもなく納戸だ。やっとたどりついて、宵に見当をつけて置いた、正面の箪笥の上の一番左の小抽斗、胸をドキドキさせながら開いて見ると、あった、あった、邪推ではなかった。十数枚の大きいのや小さいのや、写真の重ねてある一番上に、課長の村山の半身像が、いやにすましてのっかっている、でも念の為に、震える手先に力を入れてその写真を一枚一枚調べて見たが、男のものといっては村山のただ一枚で、あとはみんなお花の家庭の写真ばかりだ。もうもう疑う余地はない。そうと極った。うぬ、どうしてくれるか。くやしいのと、寒いので、宗三ガタガタと身を震わせて、はぎしりをかんだ。