4話 四
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その翌日、物も云わず、お花の差出す弁当箱をひったくると、宗三、やけに急いで役所へ出勤したが、同僚の顔を見ても、癪で仕様がない。はした月給を貰って、あの課長面にペコついているかと思うと、どいつもこいつも、かたっ端から、なぐり倒してやり度い様な気がする。挨拶もしないで席につくと、ムーッと黙り込んだまま、いやに血走った目で、まだ出勤しない課長の机を睨みつけた。
やがて、意気な背広の課長さんが、大きな折鞄を小脇に御出勤だ。一同自席から敬礼するのを軽く受けて席につく。鞄がバタンと机の上で鳴る。宗三は、無論礼なんかしない。焼く様な眼で睨んでいるばかりだ。
村山課長、一わたり机の上の整理が済むと、エヘンと一咳して、拍子の悪い、
「山名君。一寸」
という仰せだ。宗三はよっぽど返事をしないでいようかと思ったが、まさかそうもならず、渋々席を立って、課長の机の前まで行った。尤も「何か御用で」なんて追従は云わない。ムッツリとしてつったっている。だが、課長の方では、何も知らないものだからいつもの通りお叱言が始まる。
「君、この統計は困るね。肝心の平均率が出ていないじゃないか。エ、君」
見ると成程、こちらの手落ちだ。平生なら一言もなく引下る所だが、今日はそうは行かない。虫の居所が違う。返事もしないで、グッと相手を睨みつけている。
「君はこの統計を何だと思っているのだ。ご丁寧に総計を並べたりして、そんなものは入らないのだ。平均率が必要なんだ。その位のこと解り相なものだね」
「そうですかッ」
宗三、いきなりびっくりする様な大声で呶鳴ると、サッと書類を引ったくって、そのまま自席へ戻って来た。これから、みっしり、閑つぶしの御説法を始める積の課長さん、目をぱちくり。
さて、自席に戻ると、宗三何だか一生懸命書き出した。殊勝にも統計を訂正するのかと見ると決してそうでない。白紙一枚拡げると、筆太に先ず書いたのが、「辞職願」