雨月物語 03 校注 雨月物語

8話 雨月物語 03 校注 雨月物語(8)

6,384字 約13分 2024年6月12日 公開

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 時うつりて生出(いき(い))づ。()をほそくひらき見るに、家と見しはもとありし荒野(あらの)の一四二三(まい)堂にて、黒き仏のみぞ立たせまします。一四三里遠き犬の声を力に、家に走りかへりて、彦六にしかじかのよしをかたりければ、一四四なでふ狐に(あざむ)かれしなるべし。心の(おく)れたるときはかならず一四五迷(まよ)はし神の(おそ)ふものぞ。足下(そこ)のごとく虚弱(たよわ)き人のかく(うれひ)に沈みしは、神仏に祈りて一四六心を(をさ)めつべし。一四七刀田(とだ)(さと)にたふとき一四八陰陽師(おんやうじ)のいます。一四九身禊(みそぎ)して一五〇厭符(えんぷ)をも(いただ)き給へと、いざなひて陰陽師の許にゆき、はじめより(つばら)にかたりて此の(うら)をもとむ。陰陽師(うら)(かうが)へていふ。(わざはひ)すでに一五一窮(せま)りて(やす)からず。さきに一五二女の命をうばひ、(うらみ)((なほ))()きず。足下(そこ)の命も旦夕(あさゆふ)にせまる。此の一五三鬼世をさりぬるは七日(さき)なれば、一五四今日より四十二日が間、戸を()てて一五五おもき物(いみ)すべし。我が(いましめ)を守らば一五六九死を出でて(まつた)からんか。一五七一時を(あやま)るともまぬがるべからずと、かたくをしへて、筆をとり、正太郎が()より手足におよぶまで、一五八篆籀(てんりう)のごとき文字を書き、猶一五九朱符(しゆふ)あまた紙にしるして(あた)へ、此の一六〇(じゆ)を戸(ごと)()して神仏を念ずべし。あやまちして身を(ほろ)ぶることなかれと教ふるに、一六一恐れみかつよろこびて家にかへり、朱符を門に()し、窓に貼して、おもき物斎にこもりける。

 其の夜一六二三(かう)((ころ))、おそろしきこゑして、あなにくや、ここにたふとき一六三符文(ふもん)を設けつるよとつぶやきて、(ふたた)び声なし。おそろしさのあまりに長き夜を一六四かこつ。程なく夜明けぬるに一六五生(いき)出でて、急ぎ彦六が方の壁を(たた)きて(よべ)の事をかたる。彦六もはじめて陰陽師が詞を一六六奇()なりとして、おのれも其の夜は((い))ねずして三更の((ころ))を待ちくれける。松ふく風物を(たふ)すがごとく、雨さへふりて一六七常(ただ)ならぬ夜のさまに、壁を隔てて声をかけあひ、既に一六八四更にいたる。一六九下屋(しもや)の窓の紙にさと赤き光さして、あな(にく)や、ここにも()しつるよといふ声、深き夜にはいとど(すざま)しく、(かみ)も一七〇生毛(うぶげ)もことごとく聳立(そばだ)ちて、しばらくは()()りたり。明くれば夜のさまをかたり、暮るれば明くるを慕ひて、一七一此の月日頃千歳(ちとせ)を過ぐるよりも久し。かの鬼も夜ごとに家を(めぐ)り、或は屋の(むね)に叫びて、忿(いか)れる声一七二夜ましにすざまし。

 かくして四十二日といふ其の夜にいたりぬ。今は一七三一夜にみたしぬれば、(こと)(つつし)みて、一七四やや五更の(そら)もしらじらと明けわたりぬ。長き夢のさめたる如く、やがて彦六をよぶに、一七五壁によりていかにと答ふ。おもき物いみも既に()てぬ。絶えて兄長(このかみ)(おもて)を見ず。なつかしさに、かつ此の月頃の()(おそ)ろしさを心のかぎりいひ(なぐさ)まん。(ねぶり)さまし給へ。我も()の方に出でんといふ。彦六一七六用意なき男なれば、今は何かあらん、いざこなたへわたり給へと、戸を明くる事(なか)ばならず、となりの軒にあなやと叫ぶ声耳をつらぬきて、思はず一七七尻居(しりゐ)に座す。こは一七八正太郎が身のうへにこそと、(をの)()げて大路(おほぢ)に出づれば、一七九明けたるといひし夜はいまだくらく、一八〇月は中天(なかぞら)ながら影(らう)々として、風(ひや)やかに、さて正太郎が戸は明けはなして其の人は見えず。内にや逃げ入りつらんと走り入りて見れども、一八一いづくに(かく)るべき住居にもあらねば、大路にや倒れけんともとむれども、其のわたりには物もなし。いかになりつるやと、あるひは(あや)しみ、或は恐る恐る、一八二ともし火を(かか)げてここかしこを見(めぐ)るに、明けたる戸腋(とわき)の壁に一八三腥(なま)々しき()(そそ)ぎ流れて地につたふ。されど(しかばね)(ほね)も見えず。月あかりに見れば、軒の(つま)にものあり。ともし火を一八四捧(ささ)げて照し見るに、男の髪の一八五髻(もとどり)ばかりかかりて、外には一八六露ばかりのものもなし。浅ましくもおそろしさは、一八七筆につくすべうもあらずなん。夜も明けてちかき野山を(さが)しもとむれども、つひに一八八其の跡さへなくてやみぬ。

 此の事井沢が家へもいひおくりぬれば、涙ながらに香央にも告げしらせぬ。されば陰陽師が一八九占(うら)のいちじるき、一九〇御釜(みかま)凶祥(あしきさが)もはたたがはざりけるぞ、いともたふとかりけるとかたり伝へけり。

一 岡山県岡山市の吉備津神社に伝わる御釜祓いの神事。

二 嫉妬ぶかい女はとかく手におえないものだが。五雑組、巻八「人有為妬婦解嘲者……故諺有曰、到老方知妬婦功」。

三 家業を妨げ。

四 隣近所からのそしり。

五 嫉妬の害毒。

六 蛇に似た想像上の動物。ここはおろちをいう。

七 すごい雷をならして。

八 肉の塩辛。肉醤。

九 妻を教導したならば。

一〇 ちょっとした浮気。

一一 嫉妬ぶかい性質。

一二 鳥類を制して動けないようにするのは気合による。五雑組、巻八「禽之制在気、然則婦之制夫固有出於勇力之外者矣」。

一三 岡山県岡山市庭瀬。

一四 白旗城に拠った赤松氏。兵庫県上郡町にあった。

一五 一四四一年。赤松満祐が将軍足利義教を殺害した事件。

一六 赤松氏の居城白旗城。

一七 農業を生業として。「荀子」王制「春耕、夏耘、秋収、冬蔵、四者不失時、故五穀不絶而百姓有余食也」。

一八 いいつけ。命令。

一九 ああどうか。

二〇 結婚させたならば。

二一 備中の一の宮、吉備津神社の神主。

二二 十三絃の「こと」。

二三 「日本書記」応神二二年に見える吉備臣の一族、笠臣の祖。

二四 縁組をなさることは。

二五 きっと。

二六 媒酌人の自称。

二七 相手に対する尊称。

二八 いいことをきかせて下さったものです。

二九 家運長久のもとい。

三〇 身分卑しい農民。

三一 家柄がつりあわないから。翠々伝「門戸甚不敵」。

三二 うまくまとめて結婚という運びに致しましょう。

三三 いい相手があったら嫁入りさせたいものだ。

三四 心のやすまるひまもない。

三五 結納をとりかわす。

三六 吉日をえらんで。

三七 とり行なうことになった。

三八 ともに神職で、巫子はおもに女のみこ、祝部は禰宜の下の位。

三九 神前に御湯を供えて御釜祓の神事を行なう。

四〇 数多くのお供物。

四一 御嘉納にならないのであろうか。

四二 いっこう。ちっとも。

四三 夫婦の縁を結んだうえは。幽怪録「問嚢中赤縄、云、繋夫婦之足、雖仇家異域、此縄一繋終不可易」。

四四 ほまれある武門の後裔で。

四五 厳格な家風の家。

四六 婿になるべき人。

四七 とんでもないこと。

四八 母親の立場からした心持であろう。

四九 新夫婦の契りの末長からんことを祝った。淮南子「鶴千歳極其遊、亀経万歳齢」。

五〇 夫の性質をのみこんでそれに順応するように。

五一 舅姑に仕えて孝行であり、夫にかしずいて貞節であるのを感心だとして。

五二 生来のわがままで放蕩な性質。

五三 広島県福山市の港で、古来瀬戸内海の要港。庭瀬の西南六〇余キロ。

五四 遊女。

五五 身請けして。

五六 かこつけて。

五七 まったくうわのそらにききながして。

五八 ひと月以上も。

五九 真心こめた誠実なふるまい。

六〇 朝夕の仕え。奴は忠実に仕えること。

六一 説いて味方にひきいれる。手なずけて。

六二 いかりをなだめやわらげよう。

六三 袖をさす。

六四 兵庫県の加古川と明石川の間の平野で、稲美町付近が中心。歌枕。

六五 身分卑しく不幸な境遇。

六六 かわいそうに思って。

六七 港町の遊女。

六八 卑しい勤めの身。

六九 ちゃんとした身分のある人。

七〇 旅費と衣類。

七一 工面して。都合して。

七二 そなた。

七三 注文して頼む。

七四 正太郎をにくみ、磯良をあわれんで。

七五 医者にかけてその効験をねがいもとめたが。

七六 粥さえだんだんのどをとおらなくなって。

七七 兵庫県高砂市の一部。庭瀬からは東八〇余キロ。

七八 みんながみんな。

七九 一つ釜の飯をわけあって、協力して暮しの工夫をしようではないか。

八〇 風邪の気味。

八一 何ということなくわずらい出して。

八二 もののけでもついたように。

八三 正太郎をさす。

八四 介抱する。看病する。

八五 声をあげて泣くばかりで。

八六 胸がさしこんできて、たえられない様子で。

八七 熱がひき、発作がやむと。

八八 生霊・怨霊というもののたたりであろうか。

八九 磯良がもしかしたら怨霊となってたたりをしているのではなかろうか。

九〇 正太郎はひとりで胸をいためる。

九一 流行病。ここではおこりなどをさす。

九二 熱気がすこしさめたらば。

九三 自分もともに死にたいと狂気のようになっているのを。

九四 野辺に送って火葬にしてしまった。

九五 卒塔婆をたて。

九六 亡き袖のいる冥途を慕ったが。

九七 中国古代にはじまる俗信で、死者の霊魂をこの世によびもどす法。

九八 前に進もうとすれば渡し舟がなく、後に退こうとすれば道がわからなく、進退きわまって途方にくれる状態。

九九 ひねもす。終日。

一〇〇 古今集四「月みれば千々にものこそかなしけれわが身ひとつの秋にはあらねど」。

一〇一 「よそ」の枕詞。

一〇二 人気のないさびしい荒野。

一〇三 男子に対する敬称。

一〇四 はなれがたい方。肉親。愛する方。

一〇五 御推量申しあげて。

一〇六 さようでございます。

一〇七 いとしい妻。

一〇八 私ひとり生きのこって頼りなく心細い。

一〇九 せめてもの心の慰めとしているのです。

一一〇 同じような事情がおありなのでございましょうね。

一一一 御主人様のお墓で。

一一二 奥方。死んだ人の未亡人。

一一三 重い病気におかかりになられたので。

一一四 一家の主婦。奥方。

一一五 なくなった方。

一一六 由緒ある家柄の御方。

一一七 隣国にまで評判の高い。

一一八 この奥方のことが原因で。

一一九 生来の浮気心がきざしたというわけではないが、何となくひかれて。

一二〇 「さて」を強めた語。

一二一 はなしあってお互いに心の憂さをなぐさめよう。

一二二 一緒につれていって下さい。

一二三 少し横に入った方。

一二四 奥方は頼る方を失って心細くいらっしゃいますから。

一二五 きっとお待ちかねでいらっしゃいましょうよ。

一二六 約二一八メートル。

一二七 薄暗い。

一二八 茅ぶき屋根の家。

一二九 広くもない。狭い。

一三〇 ともしびの光が風に吹きあおられて。

一三一 黒塗りの違い棚。立派な調度である。

一三二 古くは身分ある女性が男子とあう時には、几帳や簾、屏風などを隔ててあうのが礼儀であり、習慣であった。

一三三 植えこみのある前庭。

一三四 柱と柱の間を一間という。

一三五 御主人に先だたれて頼りなくなられたうえに。

一三六 愛妻。

一三七 たずねたりたずねられたりして心を慰めあおうと思って。

一三八 たって参上いたしました。

一三九 ひどい仕打ちにたいする返報がどんなものか思いしらせてあげよう。

一四〇 力なくどろんとした眼。

一四一 キャーッとか、あれえとかいう悲鳴。

一四二 ここは墓地にある慰霊堂。

一四三 遠い人里で吠える犬の声。

一四四 なあに多分狐にだまされたのだろう。

一四五 人を迷わす神がとりつくものだ。

一四六 心をしずめおちつけたがよい。

一四七 兵庫県加古川市北在家付近。刀田山鶴林寺がある。荒井からは東約四キロ。

一四八 ここは占師、加持祈祷師。

一四九 身心をきよめて。

一五〇 魔よけのお守札。

一五一 身辺近く切迫していて容易なことではない。

一五二 袖をさす。

一五三 磯良の怨霊をさす。

一五四 死後四九日の間は霊魂が彼岸へ行かずに中有をさまよっているという仏教の説。

一五五 厳重な謹慎。

一五六 九死に一生を得ることができるかもしれない。

一五七 たとえ一時たりともこの戒めを破ったならば、死を免れないであろう。

一五八 籀文と篆書で、中国古代の書体。

一五九 朱で書いたお守札。

一六〇 まじない札。

一六一 一方では恐れ、また一方ではよろこんで。

一六二 午前零時―二時。

一六三 お守札。

一六四 なげく。

一六五 蘇生した思いで。

一六六 的中したことをいかにも不思議だと思って。

一六七 何か異常なことがおこりそうな不気味な夜の気配。

一六八 午前二時―四時。

一六九 身分低い者などが住む家。ここは破屋。正太郎の家。

一七〇 身の毛もよだって。

一七一 この数十日間というものは、まるで千年をすごすよりも長く思われた。

一七二 一晩ますごとに。

一七三 今夜一夜で物忌みの期間も終るところまできたので。

一七四 しばらくするうちに。

一七五 壁に身を寄せて。

一七六 思慮分別の浅い男。軽はずみなうかつ者。

一七七 尻もちをつく。

一七八 正太郎の身の上に異変が起ったに違いない。

一七九 さっき正太郎が夜が明けたと思ったのは、怨霊にだまされたのである。

一八〇 月は中空にありながら、その光りはぼんやりとおぼろで。

一八一 どこにもかくれることのできるような広い住居でもないので。

一八二 灯火を振って明るくして。

一八三 鮮血。

一八四 高くさしあげて。

一八五 髪を頭の頂で束ねた部分。たぶさ。

一八六 なにひとつない。

一八七 とても書きつくせないほどである。

一八八 形跡さえ見つからなくて、そのままに終った。

一八九 占いがよく的中したこと。

一九〇 御釜祓の凶兆のお告げもはたしてそのまま事実となってあらわれたことは。

雨月物語 巻之四

一蛇性(じやせい)(いん)

 いつの時代(ときよ)なりけん。紀の国二三輪が崎に、大宅(おほや)の竹助といふ人在りけり。此の人三海の(さち)ありて、海郎(あま)どもあまた養ひ、四鰭(はた)(ひろ)()き物を(つく)してすなどり、家豊かに暮しける。男子(をのこご)二人、女子(むすめ)一人をもてり。五太郎は質朴(すなほ)にてよく生産(なりはひ)を治む。六二郎の女子は大和の人の《つまどひ》に迎へられて、彼所(かしこ)にゆく。三郎の豊雄(とよを)なるものあり。生長(ひととなり)(やさ)しく、常に七都風(みやび)たる事をのみ好みて、八過活(わたらひ)心なかりけり。父是を(うれ)ひつつ思ふは、家財(たから)をわかちたりとも(やが)て九人の物となさん。さりとて一〇他の家を()がしめんも、はた一一うたてき事聞くらんが一二病(やま)しき。只一三なすままに(おほ)し立てて、一四博士(はかせ)にもなれかし、一五法師にもなれかし、一六命の(かぎり)は太郎が一七羈(ほだし)物にてあらせんとて、()ひて一八掟(おきて)をもせざりけり。此の豊雄、一九新宮の二〇神奴(かんづこ)安倍(あべ)弓麿(ゆみまろ)を師として行き通ひける。

 九月(ながつき)下旬(すゑつかた)、けふはことに二一なごりなく()ぎたる海の、(にはか)二二東南(たつみ)の雲を(おこ)して、小雨(こさめ)そぼふり来る。師が許にて二三傘(おほがさ)かりて帰るに、二四飛鳥(あすか)二五神秀倉(かんほぐら)見やらるる(ほとり)より、雨もやや(しきり)なれば、其所(そこ)なる海郎(あま)が屋に立ちよる。あるじの(おきな)はひ出でて、こは二六大人(うし)弟子(おとご)の君にてます。かく二七賤(あや)しき所に入らせ給ふぞいと(かしこ)まりたる事。是敷きて奉らんとて、二八円座(わらふだ)(きた)なげなるを二九清めてまゐらす。三〇霎時(しばし)()むるほどは何か(いと)ふべき。なあわただしくせそとて(やす)らひぬ。()の方に(うるは)しき声して、此の軒しばし恵ませ給へといひつつ入り来るを、(あや)しと見るに、年は廿(はたち)にたらぬ女の、顔容(かほかたち)三一髪(かみ)のかかりいと(にほひ)やかに、三二遠山ずりの色よき(きぬ)()て、三三鬟(わらは)の十四五ばかりの清げなるに、包みし物もたせ、三四しとどに()れて三五わびしげなるが、豊雄を見て、(おもて)さと打ち赤めて恥かしげなる(さま)(あて)やかなるに、三六不慮(すずろ)に心(うご)きて、(かつ)思ふは、此の(あたり)にかうよろしき人の住むらんを今まで聞えぬ事はあらじを、()は都人の三七三つ山(まうで)せし(ついで)に、海(めづら)しくここに遊ぶらん。さりとて三八男だつ者もつれざるぞいと三九はしたなる(わざ)かなと思ひつつ、すこし身退(しりぞ)きて、ここに入らせ給へ。雨もやがてぞ()みなんといふ。女、しばし(ゆる)させ給へとて、四〇ほどなき住ひなれば、四一つい(なら)ぶやうに居るを、見るに四二近(ちか)まさりして、此の世の人とも思はれぬばかり美しきに、四三心も(そら)にかへる思ひして、女にむかひ、四四貴(あて)なるわたりの御方とは見奉るが、三つ山(まうで)やし給ふらん。四五峯(みね)温泉()にや出で立ち給ふらん。かう四六すざましき荒礒(ありそ)を何の見所ありて四七狩()りくらし給ふ。ここなんいにしへの人の、

四八くるしくもふりくる雨か三輪が崎

    佐野のわたりに家もあらなくに

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