高野聖

17話 第十七

1,183字 約2分 2007年3月18日 公開

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(やさ)しいなかに(つよ)みのある、気軽(きがる)()えても何処(どこ)にか落着(おちつき)のある、馴々(なれ/\)しくて(をか)(やす)からぬ(ひん)()い、如何(いか)なることにもいざとなれば(おどろ)くに()らぬといふ()(こたへ)のあるといつたやうな(ふう)婦人(をんな)()嬌瞋(きやうしん)(はつ)しては屹度(きつと)()いことはあるまい、(いま)()婦人(をんな)邪慳(じやけん)にされては()から()ちた(さる)同然(どうぜん)ぢやと、おつかなびつくりで、おづ/\(ひか)へて()たが、いや(あん)ずるより(うむ)(やす)い。

貴僧(あなた)(さぞ)をかしかつたでござんせうね、)と自分(じぶん)でも(おも)()したやうに(こゝろよ)微笑(ほゝゑ)みながら、

()やうがないのでございますよ。)

 以前(いぜん)(かは)らず心安(こゝろやす)くなつた、(おび)()()めたので、

(それ)では(うち)(かへ)りませう。)と米磨桶(こめとぎをけ)小脇(こわき)にして、草履(ざうり)(ひつ)かけて()(がけ)(のぼ)つた。

(お(あぶの)うござんすから、)

(いえ)、もう大分(だいぶ)勝手(かつて)(わか)つて()ります。)

 づツと心得(こゝろえ)(つもり)ぢやつたが、(さて)(あが)(とき)()ると(おも)ひの(ほか)(うへ)までは大層(たいそう)(たか)い。

 (やが)(また)(れい)()丸太(まるた)(わた)るのぢやが、前刻(さつき)もいつた(とほり)(くさ)のなかに横倒(よこだふ)れになつて()る、木地(きぢ)()丁度(ちやうど)(うろこ)のやうで(たとへ)にも()くいふが(まつ)()(うわばみ)()()るで。

 (こと)(がけ)を、(うへ)(はう)へ、(いゝ)塩梅(あんばい)(うね)つた様子(やうす)が、(とん)だものに()つて()いなり、(およ)()(くらゐ)胴中(どうなか)長虫(ながむし)がと(おも)ふと、(かしら)()(くさ)(かく)して(つき)あかりに歴然(あり/\)とそれ。

 山路(やまみち)(とき)(おも)()すと(われ)ながら(あし)(すく)む。

 婦人(をんな)親切(しんせつ)(うしろ)気遣(きづか)ふては()()けてくれる。

(それ)をお(わた)りなさいます(とき)(した)()てはなりません丁度(ちやうど)中途(ちゆうと)余程(よつぽど)(たに)(ふか)いのでございますから、()(まふ)(わる)うござんす。)

(はい。)

 愚図々々(ぐづ/\)しては()られぬから、我身(わがみ)(わら)ひつけて、()()つた。(ひつ)かゝるやう、(きざ)(いれ)てあるのぢやから、()さい(たしか)なら足駄(あしだ)でも歩行(ある)かれる。

 (それ)がさ、一(けん)ぢやから(たま)らぬて、()ると()うぐら/\して(やはら)かにずる/\と()ひさうぢやから、わつといふと引跨(ひんまた)いで(こし)をどさり。

(あゝ、意気地(いくぢ)はございませんねえ。足駄(あしだ)では無理(むり)でございませう、(これ)とお穿()()へなさいまし、あれさ、ちやんといふことを()くんですよ。)

 (わし)はその前刻(さつき)から(なん)となく(この)婦人(をんな)畏敬(ゐけい)(ねん)(しやう)じて(ぜん)(あく)か、()(みち)命令(めいれい)されるやうに心得(こゝろえ)たから、いはるゝままに草履(ざうり)穿()いた。

 するとお()きなさい、婦女(をんな)足駄(あしだ)穿()きながら()()つてくれます。

 (たちま)()(かる)くなつたやうに(おぼ)えて、(わけ)なく(うしろ)(したが)ふて、ひよいと()孤家(ひとつや)背戸(せど)(はた)()た。

 出会頭(であひがしら)(こゑ)()けたものがある。

(やあ、大分(だいぶ)手間(てま)()れると(おも)つたに、御坊様(おばうさま)(もと)(からだ)(かへ)らつしやつたの、)

(なに)をいふんだね、小父様(をぢさま)(うち)(ばん)()うおしだ。)

(もう()時分(じぶん)ぢや、(また)(わし)(あんま)(おそ)うなつては(みち)(こま)るで、そろ/\(あを)引出(ひきだ)して支度(したく)して()かうと(おも)ふてよ。)

(それ)はお待遠(まちどう)でござんした。)

(なに)()つて()さつしやい御亭主(ごていしゆ)無事(ぶじ)ぢや、いやなかなか(わし)()には口説落(くどきおと)されなんだ、はゝゝゝはゝ。)と意味(いみ)もないことを大笑(たいせう)して、親仁(おやぢ)(うまや)(かた)へてく/\と()つた。

 白痴(ばか)はおなじ(ところ)(なほ)(かたち)(そん)して()る、海月(くらげ)()にあたらねば()けぬと()える。」

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