高野聖

24話 第二十四

1,246字 約2分 2007年3月18日 公開

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翌日(よくじつ)(また)正午頃(しやうごゞろ)(さと)(ちか)く、(たき)のある(ところ)で、昨日(きのふ)(うま)(うり)()つた親仁(おやぢ)(かへり)()ふた。

 丁度(ちやうど)(わし)修行(しゆぎやう)()るのを()して孤家(ひとつや)引返(ひきかへ)して、婦人(をんな)と一(しよ)生涯(しやうがい)(おく)らうと(おも)つて()(ところ)で。

 (じつ)(まを)すと此処(こゝ)()途中(とちう)でも()(こと)ばかり(かんが)へる、(へび)(はし)(さいはひ)になし、(ひる)(はやし)もなかつたが、(みち)難渋(なんじふ)なにつけても(あせ)(なが)れて心持(こゝろもち)(わる)いにつけても、今更(いまさら)行脚(あんぎや)(つま)らない。(むらさき)袈裟(けさ)をかけて、七堂伽藍(だうがらん)()んだ(ところ)何程(なにほど)のこともあるまい、活仏様(いきほとけさま)ぢやといふてわあ/\(おが)まれゝば(ひと)いきれで(むね)(わる)くなるばかりか。

 ()とお(はなし)もいかゞぢやから、前刻(さツき)はことを()けていひませなんだが、昨夜(ゆふべ)白痴(ばか)()かしつけると、婦人(をんな)(また)()のある(ところ)へやつて()て、()(なか)苦労(くらう)をして()やうより、(なつ)(すゞ)しく、(ふゆ)(あたゝか)い、()(ながれ)と一(しよ)(わたし)(そば)においでなさいといふてくれるし、まだ/\(それ)ばかりでは自身(じぶん)()()したやうぢやけれども、こゝに我身(わがみ)我身(わがみ)言訳(いひわけ)出来(でき)るといふのは、(しきり)婦人(をんな)不便(ふびん)でならぬ、深山(しんざん)孤家(ひとつや)白痴(ばか)(とぎ)をして言葉(ことば)(つう)ぜず、()()るに(したが)ふてものをいふことさへ(わす)れるやうな()がするといふは(なん)たる(こと)

 (こと)今朝(けさ)東雲(しのゝめ)(たもと)振切(ふりき)つて(わか)れやうとすると、お名残(なごり)()しや、かやうな(ところ)()うやつて老朽(おひく)ちる()の、(ふたゝ)びお()にはかゝられまい、いさゝ小川(をがは)(みづ)となりとも、何処(どこ)ぞで白桃(しろもゝ)(はな)(なが)れるのを御覧(ごらん)になつたら、(わたし)(からだ)谷川(たにがは)(しづ)んで、ちぎれ/\になつたことゝ(おも)へ、といつて、(しほ)れながら、なほ親切(しんせつ)に、(みち)(たゞ)()谷川(たにがは)(ながれ)沿()ふて()きさへすれば、()れほど(とほ)くても(さと)()らるゝ、()(した)(ちか)(みづ)(おど)つて、(たき)になつて()つるのを()たら、人家(じんか)(ちかづ)いたと(こゝろ)(やすん)ずるやうに、と()をつけて孤家(ひとつや)()えなくなつた(あたり)(ゆびさし)をしてくれた。

 (その)()()取交(とりか)はすには(およ)ばずとも、(そば)につき()つて、朝夕(あさゆふ)話対手(はなしあひて)(きのこ)(しる)御膳(ごぜん)()べたり、(わし)(ほだ)()いて、婦人(をんな)(なべ)をかけて、(わし)()()(ひろ)つて、婦人(をんな)(かは)()いて、それから障子(しやうじ)(うち)(そと)で、(はなし)をしたり、(わら)つたり、それから谷川(たにがは)二人(ふたり)して、其時(そのとき)婦人(をんな)裸体(はだか)になつて、(わし)背中(せなか)呼吸(いき)(かよ)つて、微妙(びめう)(かほり)(はな)びらに(あたゝか)(つゝ)まれたら、(その)まゝ(いのち)()せても()い!

 (たき)(みづ)()るにつけても()(がた)いのは其事(そのこと)であつた、いや、冷汗(ひやあせ)(なが)れますて。

 其上(そのうへ)、もう()がたるみ、(すぢ)(ゆる)んで、()歩行(ある)くのに(あき)()(よろこ)ばねばならぬ人家(じんか)(ちかづ)いたのも、(たか)がよくされて(くち)(くさ)(ばあ)さんに渋茶(しぶちや)振舞(ふるま)はれるのが(せき)(やま)と、(さと)()るのも(いや)になつたから、(いし)(うへ)(ひざ)()けた、丁度(ちやうど)()(した)にある(たき)ぢやつた、これがさ、(あと)()くと女夫瀧(めうとたき)()ふさうで。

 真中(まんなか)()鰐鮫(わにざめ)(くち)をあいたやうな(さき)のとがつた(くろ)大巌(おほいは)突出(つきで)()ると、(うへ)から(なが)れて()(さツ)()(はや)谷川(たにがは)が、(これ)(あた)つて(ふたつ)(わか)れて、(およ)そ四(ぢやう)ばかりの(たき)になつて(どツ)()ちて、(また)暗碧(あんぺき)白布(しろぬの)()つて()()るやうに(さと)()るのぢやが、(その)(いは)にせかれた(はう)は六(しやく)ばかり、(これ)(かは)の一(はゞ)()いて(いと)(みだ)れず、一(ぱう)(はゞ)(せま)い、三(じやく)(ぐらゐ)、この(した)には雑多(ざツた)(いは)(なら)ぶと()えて、ちら/\ちら/\と(たま)(すだれ)百千(ひやくせん)(くだ)いたやう、(くだん)鰐鮫(わにざめ)(いは)に、すれつ、(もつ)れつ。」

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