高野聖

4話 第四

1,200字 約2分 2007年3月18日 公開

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(わし)腹立紛(はらだちまぎ)れぢや、無暗(むやみ)(いそ)いで、それからどん/\(やま)(すそ)田圃道(たんぼみち)(かゝ)る。

 半町(はんちやう)ばかり()くと、(みち)()(きふ)(たか)くなつて、(のぼ)りが(いつ)(しよ)(よこ)から()()えた、弓形(ゆみなり)(まる)(つち)勅使橋(ちよくしばし)がかゝつてるやうな。(うへ)()ながら、(これ)(あし)踏懸(ふみか)けた(とき)以前(いぜん)薬売(くすりうり)がすた/\()つて()追着(おひつ)いたが。

 (べつ)言葉(ことば)()はさず、(また)ものをいつたからといふて、返事(へんじ)をする()此方(こツち)にもない。何処(どこ)までも(ひと)(しの)いだ仕打(しうち)薬売(くすりうり)流盻(しりめ)にかけて(わざ)とらしう(わし)通越(とほりこ)して、すた/\(まへ)()て、ぬつと小山(こやま)のやうな(みち)突先(とつさき)蝙蝠傘(かうもりがさ)()して()つたが、(その)まゝ(むか)ふへ()りて()えなくなる。

 其後(そのあと)から爪先上(つまさきあが)り、(やが)てまた太鼓(たいこ)(どう)のやうな(みち)(うへ)(からだ)()つた、(それ)なりに(また)(くだ)りぢや。

 売薬(ばいやく)(さき)()りたが立停(たちどま)つて(しきり)四辺(あたり)(みまは)して()様子(やうす)執念深(しふねんぶか)(なに)(たく)んだか、と(こゝろよ)からず(つゞ)いたが、さてよく()ると仔細(しさい)があるわい。

 (みち)此処(こゝ)で二(すぢ)になつて、一(すぢ)はこれから()ぐに(さか)になつて(のぼ)りも(きふ)なり、(くさ)両方(りやうはう)から生茂(おひしげ)つたのが、路傍(みちばた)()(かど)(ところ)にある、(それ)こそ四(かゝへ)さうさな、五(かゝへ)もあらうといふ一(ぽん)(ひのき)の、背後(うしろ)(うね)つて切出(きりだ)したやうな大巌(おほいは)が二ツ三ツ四ツと(なら)んで、(うへ)(はう)(かさ)なつて()背後(うしろ)(つう)じて()るが、(わし)見当(けんたう)をつけて、心組(こゝろぐ)んだのは此方(こツち)ではないので、矢張(やツぱり)(いま)まで歩行(ある)いて()()(はゞ)(ひろ)いなだらかな(はう)(まさ)しく本道(ほんだう)、あと二()()らず()けば(やま)になつて、(それ)からが(たうげ)になる(はず)

 ()()ると、()うしたことかさ、(いま)いふ(その)(ひのき)ぢやが、其処(そこ)らに(なんに)もない(みち)横截(よこぎ)つて見果(みはて)のつかぬ田圃(たんぼ)中空(なかそら)(にじ)のやうに突出(つきで)()る、見事(みごと)な。根方(ねかた)(ところ)(つち)(くづ)れて大鰻(おほうなぎ)()ねたやうな()幾筋(いくすぢ)ともなく(あら)はれた、(その)()から一(すぢ)(みづ)(さつ)()ちて、()(うへ)(なが)れるのが、()つて(すゝ)まうとする(みち)真中(まんなか)流出(ながれだ)してあたりは一(めん)

 田圃(たんぼ)(みづうみ)にならぬが不思議(ふしぎ)で、どう/\と()になつて、前途(ゆくて)に一(むら)(やぶ)()える、(それ)(さかひ)にして(およ)そ二(ちやう)ばかりの(あひだ)(まる)(かは)ぢや。(こいし)はばら/\、飛石(とびいし)のやうにひよい/\と大跨(おほまた)(つた)へさうにずつと()ごたへのあるのが、それでも(ひと)()(なら)べたに(ちが)ひはない。

 (もつと)衣服(きもの)()いで(わた)るほどの大事(おほごと)なのではないが、本街道(ほんかいだう)には()難儀(なんぎ)()ぎて、なか/\(うま)などが歩行(ある)かれる(わけ)のものではないので。

 売薬(ばいやく)もこれで(まよ)つたのであらうと(おも)(うち)切放(きれはな)れよく(むき)()へて(みぎ)(さか)をすた/\と(のぼ)りはじめた。

 ()()(ひのき)(うしろ)(くゞ)()けると、(わし)(からだ)(うへ)あたりへ()(した)()き、

(おい/\、松本(まつもと)()(みち)此方(こつち)だよ、)といつて無雑作(むざふさ)にまた五六()

 (いは)(あたま)半身(はんしん)乗出(のりだ)して、

茫然(ぼんやり)してると、木精(こだま)(さら)ふぜ、昼間(ひるま)だつて用捨(ようしや)はねえよ。)と(あざけ)るが(ごと)()()てたが、(やが)(いは)(かげ)(はい)つて(たか)(ところ)(くさ)(かく)れた。

 (しばら)くすると見上(みあ)げるほどな(あたり)蝙蝠傘(かうもりがさ)(さき)()たが、()(えだ)とすれ/\になつて(しげみ)(なか)()えなくなつた。

(どッこいしよ、)と暢気(のんき)なかけ(ごゑ)で、()(ながれ)(いし)(うへ)飛々(とび/″\)(つたは)つて()たのは、呉座(ござ)尻当(しりあて)をした、(なん)にもつけない天秤棒(てんびんぼう)片手(かたて)(かつ)いだ百姓(ひやくしやう)ぢや。」

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