3話 C・C・D潜水艦
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その夜春田博士の実験室では、博士の発明した「C・C・D潜水艦」に用うる、世界最初の無燃料機関の実験をすることになっていた。なにしろこの機関が完全に成功すれば、潜水艦は何十時間でも何百時間でも水底にいられるし、速力も一時間二百哩くらい出るので、たとえば水底をくぐって僅の間に太平洋横断ができるという、まことに恐るべき発明であった。
むろん春田博士の発明は、世界中の学者の羨望の的になっているもので、各国の海軍では、どうかしてこの発明を手に入れようと、狂人のように騒いでいるのだった。
それ故その夜の実験は、春田邸の広庭に離れて建てられた実験室で、ごく秘密に行われるので、招待される人は、海軍少将山川八郎氏、機関大佐横田文人氏、の二人きり、それに博士と、龍介君に文子さんが助手役となって立合うだけだった。
実験は八時半からで、もう八時には横田大佐が実験室へ現われた。しかしどうしたことか、山川少将はなかなか姿を見せなかった。
「どうしたのだろう、山川さんは。もう八時三十分ちょっと廻ったがねえ」
横田大佐は懐中時計を見ながら頭をかしげた。「あの人が時間におくれるなんて珍しい」
そういっている時、扉が明いて、ぜいぜい息を切らした山川少将があらわれた。
「いや失敬した。途中で自動車に故障がおこったものだから――」
「そうですか、私達はまたどうなすったのかと心配していました。では博士、実験にかかって頂きましょう!」
横田大佐がそういった。
実験室の窓や扉には、厳重な鉄の鎧戸がぎりぎりと鳴りながらおろされた。そして人々は室の中央へと集まっていった。
そこには中央に大きな台を据えて、長さ二米突ばかりの複雑なC・C・D潜水艦用機関の模型が取附けられてあった。博士は、まず台の上へ、設計図をひろげて、静かな口調で発明の要点を話しだした。
龍介は一同からすこし離れた場所にたって、万一の場合にとわたされたモオビルの精巧な小型拳銃を握りしめながら、じっとあたりを警戒していた。
「では模型を動かして実験に取りかかります」博士は一とおり説明を終ると、模型機関のハンドルを握った。
「つまりこのハンドルを引くと、このクランクを伝わって、中心原動桿に力が起されるのです。……」
博士の指がハンドルを引くと共に、一種微妙な音をたてながら、複雑極まる機関がしずかに動きはじめた。見ていた山川少将、横田大佐は驚嘆のあまり思わず叫んだ。
「素晴しいものだ!」
「国宝的な発明だ!」
その時、龍介君はその機関の響きの外に、なにかひくい機械の廻転するような物音を耳にした。なんだか分らないが、遠くではない、すぐ近くでしていることはたしかだ、それはリリリリリと、云うかすかな音だった。――と、何をみつけたか、龍介君は突然サッと顔色を変えて叫んだ。
「お父様、実験中止ッ 文子、電灯を消せ」
「どうした龍介、なんだ!」
「設計図と模型を守って下さい。文子早く電灯を消すんだ。早くッ」文子はいわれるままにスイッチを捻った。実験室は真暗闇になる、とたん、
「あれ 兄さん」という文子の叫声が闇のなかに、けたたましくおこった。