4話 メリケン壮太
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文子の叫声をきいた龍介君、声のした方へ懐中電灯をむけると、実験室の壁の一部が外にひらいて、黒装束の男が、文子を横抱にして外へ出るところだった。
「待てッ」が遅かった 壁は元のとおり閉まって、押せども引けどもびくともせぬ。それと見るより拳銃片手に龍介君は扉口に突進した。しかしそこにも厳重に鎧扉が下りていたので、外へ出るまでにはたっぷり二分はかかっていた。――ようやく広庭へ出て見ると、一人の男が暗闇の中を走ってゆく。
「止れ、止れ、待たぬと撃つぞ」大声で叫んだが止まる容子もないから、龍介君は狙い撃ちに二発撃った――パッパッと赤い火が銃口から走ったと思うと「あっ」と声をあげて怪しい男はもんどり打って倒れた。
駈けよってみると、筋骨逞しい若者が、脛を押えてうんうん呻っている。むろん掠傷だ。
「動くな、動くと撃つぞ」春田君は拳銃を向けながら叫んだ「立て、歩くんだ」そしていやッというほど尻を蹴とばした。
龍介君が若者を追い立てて実験室へもどると、設計図と模型を守っていた博士と大佐は心配そうにいった。
「文子はみつかったか」
「いや駄目でした、しかし今は文子のことより先に取掛らなければならぬ仕事があります……ところで山川少将はどうしました、見えませんね」
「山川さんも文子と一緒に掠われたらしい」龍介君は歯噛みをして口惜しがった。そして若者の顔を睨みつけながら、
「この売国奴め」と、どなりつけた。
すると若者はさっと顔色をかえて、
「僕ぁ不良青年かもしれねえが売国奴と呼ばれる覚えはないぞ、僕ぁメリケン壮太っていうちったあ知られた男だ、さあ僕がどうして売国奴だ、わけをいえ」
「よし教えてやるから、貴様がこの実験室の前に忍んでいたわけを話せ……」
「訳は簡単だ。額にあざのある外国人の牧師に頼まれて、この中で骨牌をやっている者がある。自分は警察へ密告してくるから、ここで見張をしていてくれといって、五円紙幣をくれたのだ、だから立ってたのよ」
「其奴が外国の軍事探偵だ、そして春田式C・C・D潜水艦の機密図を盗むために貴様を見張に雇ったのだ」
「本当か?」メリケン壮太はじだんだを踏んで口惜しがった。「畜生、よくも騙しやがったな、今にどうするか……」
「お父様、此奴を縛っておいてください。僕は外に重大な調物がありますから」
そして博士と横田大佐が、騒ぎまわるメリケン壮太を縛りあげている間に、龍介君は鼠のような素早さで、実験室の中を調べまわった。
「あっ」という龍介君の叫声に、驚いて博士と大佐が駈けつけると、北向の壁の頂上が、龍介君の指の触れるままに、ぽっかりと口をあけて、そこから黒い四角な筐があらわれた。
「僕の考えが当ったッ」龍介君はそう叫ぶと、その筐を引き出したが「だめだ、空だ!」と呟いて筐を抛りだした。
「何だそれは?」と博士が訊いた。
「これは……」と龍介君が云った時電話の鈴が突然激しくなり出した。博士が受話器をとった。電話は山川少将宅からだった。
「あ、春田博士ですか、どうぞすぐおいで下さい。主人が書斎に倒れております。そして金庫の中の重要書類が盗まれております」