5話 二人の山川少将
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春田博士が大佐と龍介君をつれて自動車で駈けつけた時、山川少将は書斎の長椅子の上で、頭に繃帯をして横になっていた。少将は三人の客を迎えると苦笑しながら次のように話しだした。
少将は博士の実験に立会うつもりで、八時十分前に身支度をすませ、金庫の中から、実験に入用な重要書類を取り出していた。その時、いきなり後ろから頭をひどく殴られて、気絶してしまったのである。それから書生に呼び醒まされた時には、すでに重要書類も曲者の姿も、そこにはなかったのであった。
「すると!」と博士が傍からいった「あんたは今夜私の実験室へこられなかったのですね」
「そうじゃよ」
「じゃあ、あの山川少将……いや山川少将に扮装した男は何者だろう」
「えッ 俺に扮装した男じゃと?」
少将に問われるままに、博士は今夜おこった事件の始終を話した。聞くより少将は跳びあがった。
「や、そりゃたしかにどこかの軍事探偵じゃ、そして発明は無事か」
「はい、設計図や模型は安全……」
「安全ではなかったのです閣下」と龍介君が博士の言葉をさえぎりながら進みでた、「設計図や模型は元のままちゃんとしていますが、しかしそれは皆すっかり盗まれてしまったのです」
「え、何じゃと、それはどう云うわけじゃ」
少将も、博士も、横田大佐も、意外な龍介君の言葉に面喰らってしまった。
「訳は後でも話せます。閣下、この書斎になにか証拠になるような物は落ちていませんでしたか」
「いや別に……」と少将は考えているようだったが、やがて「おおそうだ、こんな物があったが、何かの役に立つかな」そういって一枚の紙片をさし出した。
受取った龍介君、ひと眼見るより「あっ」と驚きの声をあげた。それは昼間友達からわたされた暗号文と同じ紙で、しかも同じ筆跡のペン書きでこう書いてあった。「ゴクロウ○マ スミタ○ ウエハ コレデ シツレイ オチノ○ル ○ンセン」
「うん……同じ暗号だな」
「何かわかったかね」傍から博士が心配そうに覗きこむ。
少年はそれには見向きもせずに、ポケットの中から最初の暗号文を取り出して、照合せながら○の部分へ文字を当嵌めにかかった。それは二分と経たぬ間にできあがった。文章はこうなった。
「ゴクロウサマ スミタル ウエハ コレデ シツレイ オチノビル ヤンセン」
「そうだ牧師ヤンセン、メリケン壮太を雇ったのも牧師、まさに此奴だ」
そう叫んだが――さてそれだけの文章では何がなにやら訳がわからない。
「さあ困った、どういうことがこの文章の中に隠してあるんだろう?」さすがに龍介君、頭を抱え眉をよせて当惑した。「早くしないと、大切な発明は、軍事探偵の手で国外へ持去られてしまうではないか……」
と、龍介君はもう一度、二枚の暗号文を比べて見たが、さっと悦びの色を見せて少将の前へ走りよった。そして顫える声で、
「十日ばかり前、たしかサルビヤ号という外国船が入港しているはずですが、どなたかご存知ありませんか」と、訊ねた。
「ああ横浜へ泊っとるよ、たしか亜米利加の遊覧船だと思ったが」と少将が答えた。
「それだッ」龍介君は喚くと共に電話器に飛びついた。