7話 怪船上の乱闘
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闇の海上に、魔のように眠っている汽船サルビヤ号の舷側へ、静かについたモータア艇があったと見るまに、するすると龍介君を先頭にした、博士、大佐、着剣した銃を持った水兵十名の一隊が、甲板に乗移った。とたん、
「其処に居るのは誰だ」とどなる船員の声、しかし大股に進み出た水兵のためにうんともいわず、その場に殴倒された。「さ船室へ早く」龍介君が喚いた。「額にあざのある男を逃がさないように頼みます!」
そして真先に、拳銃を握って船室へとびこんで行った。が、意外や そこには既に一人の日本青年が、多勢の外国船員を相手に乱闘のまっ最中だった。
「敵か、味方か!」と龍介君が呼びかけた。
「メリケン壮太だ」と若者が叫んだ「ここは引受けた。あっちへいって早く大事な物を取返してくれたまえ!」
なる程それは、実験室へ縛ってきたはずのメリケン壮太だ。彼は知らずに犯した売国奴の罪を償うため、自動車の後部にとびつき、身を挺してここへきたのだ。壮太自慢の拳骨がとぶたびに、ばったばったと船員共は倒された。
「よし任せた壮太! それ行け」と一隊は更に船室の奥深く突進した。――捜査は三十分ばかり続いた。しかしついに文子の姿も、額にあざのある男もみつからなかった。
「残念だ、ここまで追詰めて逃げられたか」そういって龍介君が、歯噛みをしながら、ふと見るともなしに見ていると、船室の天井の隙間からうすぼんやりとした光がさして、それが点いたり消えたりするようである。
「やッ」と更に注意して見ると、それは「・・――・――・」という、例の龍介君考案の信号で、「危険助けてくれ」という意味、いわずと知れた文子の信号。
「しめた、この天井に隠れているぞ」
「それ」と、勇み立った水兵たち、手に手に手斧を振り立てて、たちまち子供の通れるくらいの穴があく。待ちかねた龍介君、その穴から天井へ這いこんだ。と、闇の中から、「手を挙げろ」春田少年なにくそッと、身を沈めるとみるや声のした方へ飛礫のように突掛った。
「畜生」と叫びながら、ふいを喰って倒れる奴、おかせず飛掛ったが、なにしろ相手は大男の毛唐、双手で龍介君の首を掴むと見る間に、はっしと床へ叩きつけた……か 否々その時後ればせに這いあがったメリケン壮太が、後から毛唐の首へ腕をまわして、喉輪責めに締めあげた。
「オオ、オオ、待って呉れ」と、弱音をあげたが、うんと締める壮太の力に、苦もなくそこへ気絶てしまった。
「文ちゃん、文ちゃん」叫び立てる龍介の声、闇の中から待かねたように躍り出た文子、兄龍介に抱きついて、
「お兄さん、お兄さん」と唯涙にくれるばかりであった。
「坊っちゃん」傍でメリケン壮太が悦しそうに叫んだ「こいつですよ牧師ヤンセンは。この鞄の中に何もかも入っていますぜ。畜生、これでメリケン壮太の男も立ったぞ」
そしてヤンセンの尻を力一杯蹴とばした。さっき自分が龍介君にやられたように。
春田博士の発明を撮影したフィルムも、山川少将の重要書類も、大事な妹も春田龍介君の手柄で無事に戻った。
それからメリケン壮太は不良青年をやめて、忠実な龍介君の助手として働くことになった。そして、いつでも友達にこういっている。
「へん、おいらの親分は龍介さんで、そしておいらはメリケンの壮太よ、矢でも鉄砲でも持ってこい」