我輩は何故いつまでもすべてに於て衰えぬか

1話 なぜ世人は直ぐ衰えるのか

629字 約1分 2018年2月16日 公開

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 人間は百二十五歳までの寿命をもっておるというのが我輩(かね)ての説である。しかしこれにはあえて深い論のある訳でない。生理学者の説に依ると、すべて動物は成熟期の五倍の生存力をもっておるというてある。そこで人間の成熟期は二十五歳というから、この理窟から推してその五倍、即ち百二十五歳まで生きられる訳である。勿論(もちろん)土地気候の関係や各人体質の如何(いかん)に依りて長短の差は有ろうが、大体に於て百二十五の寿命というのがその趣旨である。(したが)って我輩の説からいうと、それ以上に生存した者でなければ長寿者といえぬのである。

 そういう訳で人間の気力は百二十五歳までは衰うべきものでない。(しか)るに今日世人の多くが(わず)か五十、六十にして身体気力共に衰退しているのは一体どういう訳か。およそ人の身体は使わなければ衰える。力士が稽古(けいこ)を休むと相撲(すもう)が取れなくなり、永く頭を使わぬと働きが鈍くなるのは皆この理由である。即ち世人の多くがいわゆる隠居(いんきょ)と称して隠退して社会から遠ざかってしまうから、自ずと衰退するのであると思う。これは実に意気地ない事である。かの地震火事の如き天災非常の場合に、驚くほどの力の出るのは何故であろうか。この場合に於ては精神が非常に興奮しているからである。即ち精神の力が体力に勝つのだ。我輩はこれを称して精神が物質を支配するのだといっている。戦争の場合とても全く同じ事である。そこで我輩はこれらの点から考えて、気力身体の衰えると否とは年齢の関係ではなく、修養の如何にありと信ずるのである。

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