3話 今戸の土人形
読み方を変える
字の大きさ
行の間隔
1行の長さ
書体
配色
読み上げの速さ
組み方
御承知の通り、今戸は瓦、ほうろく、かはらけ、火消壺等種々土を以つて造る所ゆゑ自然子供への玩具も作り、浅草地内、或は東両国、回向院前等に卸売見世も数軒ありて、ほんの素焼に上薬をかけ、土鍋、しちりん、小さき食茶碗、小皿等を作り、人形は彩色あれど多くは他の玩具屋の手にて彩色し、その土地にては素焼のまゝ数を多く焼き出さんがためにてある由。俵の船積が狂詠に「色とりどり姿に人は迷ふらん同じ瓦の今戸人形」(明和年間)とも見ゆ。予記憶せる事あり、回向院門前にて鬻げる家にては皆声をかけ「しごくお持ちよいので御座い」とこの言葉を繰返へしいひ居りしが、予、日々遊びに行けるよりなじみとなり、大なる布袋の人形をほしいといへるに、連れし小者の買はんとせしに、これは山城伏見にて作りし物にて、当店の看板なればと、迷惑顔せし事ありしが、京より下り来し品も、江戸に多くありけるものと見えたり。或る人予に、かゝる事を聞かせし事あり。浅草田圃の鷲神社は野見の宿禰を祀れるより、埴作る者の同所の市の日に、今戸より土人形を売りに出してより、人形造り初めしとなん。余事なれど酉の市とは、生たる鶏を売買せし也。農人の市なれば也。それ故に細杷も多く売りしが、はては細杷のみにては品物淋しきより、縁起物といふお福、宝づくしの類を張り抜きに作り、それに添へてかき込め/\などいふて売りけるよし、今は熊手の実用はどこへやら、あらぬ飾物となりけるもをかし。