5話 我輩の凡人主義
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ここで聊か我輩自身を紹介するが、無主義であるという我輩も、強いて名づくればやはりいわゆる凡人主義で、最初の傾向からして福沢先生と同一経路を辿っているように思う。もっとも我輩は小僧時代から政治運動が好きで多くその方に身を入れておったから、書籍を読むことにかけては福沢先生ほど勉強はしなかった。また読んでも先生ほどの学者にはなれなかったかも知れぬ。けれども福沢先生が書籍から得た修養を、我輩は政治運動中に遭遇したあらゆる困難の中から得て、窮極凡人主義に到達したのである。しかし我輩とても更に本を読まぬのではない。福沢先生の読んだ種類の書籍はやはり我輩の読んだのと同一で、初めは医者を師として蘭学の書を繙いた。その次は物理書である。いわゆる当時にあっては最文明思想の根源であった洋学書は、先生も我輩もご同様に読んだのである。――もっとも我輩の読んだ分量は先生のより少なくはあったが――既に最初の傾向が同一で、同一種類の書を読んだのであるから、先生と我輩との思想が相近づいて来たのは当然である。即ち先生と我輩とは期せずして凡人主義の流れを汲んだのである。ただ先生は教育家として凡人主義を社会に皷吹し、我輩は政治家としてこの主義を社会に展べんと欲したという差があるのみで、非凡人主義なる封建思想を破壊し、凡人主義の文明思想を国民に与えんと尽力したのは同一である。