福沢先生の処世主義と我輩の処世主義

4話 福沢先生の日常生活

502字 約1分 2018年2月3日 公開

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 かの医師弁護士などの住居を見ると玄関は立派、応接室には美しい書籍――()かも()りもせぬもの――を飾っておどかすにも(かか)わらず、勝手元はなにやら怪しげなのが多いようだが、福沢先生にはそんな事が微塵(みじん)もない。座敷へ通ってみると花が活けてある。お嬢さんが踊りを踊っている。三味線を弾いている。先生は平気で煙草(タバコ)を吸いながら、面白そうに見たり聞いたりしている。奥さんも傍に聞いている。親戚が来ても一緒に聞うじゃないかという風である。宛然(えんぜん)俗人の家で、学者の生活としては実に平凡極まるものである。しかのみならず訪問客には坊主もいれば神主もいる。俗人も山師も新聞記者も種々雑多なものが来ている。先生(ひま)があると、煙草盆を下げて出て誰にでも会って話をする。気に喰わぬから門前払いを(くらわ)すとか、仏頂面(ぶっちょうづら)をして話すとかいう事が更にない。誠にはや平凡なものだが、これも先生の凡人主義から来ておるので、先生の眼から見れば、君子も小人も学者も俗人もない。すべてが凡人で、彼も凡人我も凡人であるから、凡人同士の集合に、誰彼の差別のあるべきはずがない。ここが間口も奥行も一切平等なる福沢先生の純凡人主義の極致で、我輩の大いに敬服するところである。

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