浅茅生

6話

1,302字 約3分 2022年9月7日 公開

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(うら)(うつく)しいのは、旦那樣(だんなさま)、……坊主(ばうず)(もち)ものでござります……」

 道理(だうり)こそ、出入(でい)りを(ひと)(かく)して(かたち)()せぬと、一晩(あるばん)()さんが注進顏(ちうしんがほ)で、(てがら)らしく()つた(こと)(おぼ)えて()る。……

 臺所(だいどころ)(せま)張出(はりだ)しで、お()さんは()()れてから自分(じぶん)行水(ぎやうずゐ)使(つか)つた。が、蒸暑(むしあつ)()で、糊澤山(のりだくさん)浴衣(ゆかた)()きながら、(すゞ)んで()ると、(れい)(やなぎ)葉越(はごし)(かげ)()す、五日(いつか)ばかりの(つき)電燈(でんとう)()けないが、二階(にかい)見透(みとほし)(おもて)(えん)に、鐵燈籠(かなどうろう)()ばかり(ひと)つ、(みね)(だう)でも()るやうに、(なん)となく浮世(うきよ)から(はな)れた樣子(やうす)で、滅多(めつた)(かほ)()せない()女主人(をんなあるじ)が、でも、端近(はしぢか)へは()ないで、座敷(ざしき)(なか)ほどに一人(ひとり)()た。

 ()樣子(やうす)が、餘所(よそ)から歸宅(かへ)つて、(あつ)さの(あま)り、二階(にかい)()げて(すゞ)むらしい……

(うすもの)()いで、(おび)()いて、(みづ)のやうなお襦袢(じゆばん)ばかりで、がつかりしたやうに、()つた團扇(うちは)(うご)かさないで、くの()なりに背後(うしろ)片手(かたて)()いて()なさる(ところ)……()うもお(いろ)(しろ)(こと)……(ちゝ)(あたり)()團扇(うちは)で、(かく)れましたが、(ほつそ)りした()(うで)()いた(した)に、ちらりと(むす)()()えました……扱帶(しごき)(はし)ではござりません……(たし)かに(おび)でござりますね、(つき)()餘程(よほど)らしうござります……成程(なるほど)人目(ひとめ)()ちませう。

 (これ)(もつ)て、あの(かた)が、一寸(ちよつと)(には)へも()なさらない(わけ)(わか)りました、おみもちでござりますよ。」

 と()(とき)()さん拔衣紋(ぬきえもん)で、自分(じぶん)下腹(したはら)(おさ)へて()つた。

(それ)()うして、坊主(ばうず)(もち)ものだと()れたんだらう。」

(ところ)旦那樣(だんなさま)別嬪(べつぴん)さんが、()うやつて、手足(てあし)白々(しろ/″\)座敷(ざしき)(なか)(すゞ)んで()なさいます、()周圍(まはり)を、ぐる/\と……(とこ)()から(つぎ)()簀戸(よしど)(はう)(うら)から表二階(おもてにかい)(はう)と、横肥(よこぶと)りにふとつた、帷子(かたびら)(なん)でござりますか、ぶわ/\した()ものを()ました(ばう)さんが、()をかいて《まは》つて()ります。()影法師(かげぼふし)が、鐵燈籠(かなどうろう)(かすか)(あか)りで、別嬪(べつぴん)さんの、しどけない姿(すがた)(うへ)へ、眞黒(まつくろ)()つて、(おし)かぶさつて()えました。そんな(ところ)(だれ)他人(たにん)()せるものでございます。……まはりを《まは》つて()(ふと)つた(ばう)さんは、(たしか)に、御亭主(ごていしゆ)か、旦那(だんな)(ちが)ひないのでございますよ。」

「はてな……(それ)(また)(なん)だつて、蜘蛛(くも)()でも()けるやうに、(へん)周圍(まはり)を《まは》るんだ。」

(それ)貴方(あなた)(よこ)から()たり、(たて)から()たり、種々(いろ/\)にして(たのし)みますのでございます。(てかけ)などと(まを)しますものは、()うしたものでございますとさ。」

「いや、(おそ)れるぜ。」

 と(それ)なり()む。

 ()()ち、(つき)はかはつたが、(あつ)さが(つゞ)く。()けて雨催(あまもよ)ひで(かぜ)()んだ、羽蟲(はむし)(おびたゞ)しい()であつた。……一()(はりがね)()いて(まど)()して、ねばり()いた(むし)(かず)を、(しご)くほど、はたきに()けて(はら)()てたが、もとへ()ゑると、()る/\うちに(うづたか)いまで、電燈(でんとう)のほやが(くろ)()つて、ばら/\と()ちて、むら/\と()ち、むず/\()ふ。

 (あま)(うるさ)くつて、パチンと(ひね)つて、()()した。

 (くも)つた(そら)(ほし)もなし、眞黒(まつくろ)二階(にかい)(うら)子窓(れんじまど)で、――こゝに(いま)()るやうに――唯吉(たゞきち)が、ぐつたりして溜息(ためいき)()いて、大川(おほかは)(みづ)(さへぎ)る……()(うご)かない裏家(うらや)背戸(せど)の、()一本柳(ひともとやなぎ)を、熟々(つら/\)凝視(みつ)めて()(こと)があつた。

 其處(そこ)病上(やみあが)りと()風采(とりなり)中形(ちうがた)浴衣(ゆかた)(きよ)らかな白地(しろぢ)も、(よる)草葉(くさば)(くも)る……なよ/\とした博多(はかた)伊達卷(だてまき)姿(すがた)で、つひぞない(こと)(には)()()た。()(とき)美人(びじん)雪洞(ぼんぼり)()()つて()たのである。

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