浅茅生

7話

1,162字 約2分 2022年9月7日 公開

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 ほつれた圓髷(まげ)に、黄金(きん)平打(ひらうち)(かんざし)を、照々(てら/\)左插(ひだりざし)。くツきりとした頸脚(えりあし)(なが)此方(こなた)()せた後姿(うしろすがた)で、遣水(やりみづ)のちよろ/\と燈影(ひかげ)()れて(はし)(へり)を、すら/\薄彩(うすいろ)刺繍(ぬひとり)の、數寄(すき)づくりの淺茅生(あさぢふ)(くさ)()けつゝ歩行(ひろ)ふ、素足(すあし)(つま)はづれにちらめくのが。白々(しろ/″\)(つゆ)(かる)く……(やなぎ)(わた)()風情(ふぜい)

 ()()へたのが何時(いつ)()びて、丁度(ちやうど)咲出(さきで)桔梗(ききやう)(はな)が、浴衣(ゆかた)(そで)左右(さいう)(わか)れて、すらりと(うつ)つて二三(りん)(いろ)にも()れば(かげ)をも宿(やど)して、雪洞(ぼんぼり)(うご)くまゝ、(しづ)かな庭下駄(にはげた)(なび)いて、十()()らぬそゞろ歩行(あるき)も、山路(やまぢ)(とほ)く、遙々(はる/″\)辿(たど)るとばかり(なが)()る……

 ()もなかつた。

 さつと(おと)して、(やなぎ)地摺(ぢず)りに枝垂(しだ)れた()が、(すそ)から(うづ)()いて(くろ)(わた)つて、()れると(おも)ふと、湯氣(ゆげ)()したやうな生暖(なまぬる)(かぜ)(なが)れるやうに、ぬら/\と吹掛(ふきかゝ)つて、(どつ)(くさ)()(あふ)つて()つたが、(すそ)(たもと)を、はつと(みだ)すと、お納戸(なんど)()扱帶(しごき)()めた、前褄(まへづま)(しぼ)るばかり、淺葱縮緬(あさぎちりめん)蹴出(けだし)(から)んで、踏出(ふみだ)白脛(しらはぎ)を、(くさ)()(さき)(あやふ)()めて……と、吹倒(ふきたふ)されさうに撓々(たわ/\)()つて、(むね)()らしながら、(そで)雪洞(ぼんぼり)()をぴつたり()せたが、フツと()えるや、よろ/\として、崩折(くづを)れる(さま)に、縁側(えんがは)へ、退(しさ)りかゝるのを、(そら)なぐれに(あふ)つた(すだれ)が、ばたりと(おと)して、卷込(まきこ)むが(ごと)姿(すがた)掻消(かきけ)す。

 ()雪洞(ぼんぼり)()えた拍子(ひやうし)に、晃乎(きらり)唯吉(たゞきち)()(とま)つたのは、(びんづら)()けて(くさ)()ちた金簪(きんかんざし)で……(しめ)やかな(つゆ)(なか)に、()()くばかり、(かすか)(ほたる)(かげ)(のこ)したが、ぼう/\と吹亂(ふきみだ)れる可厭(いや)(かぜ)に、(まぼろし)のやうな蒸暑(むしあつ)(には)に、(あたか)曠野(あれの)(ごと)瞰下(みおろ)されて、やがて()えても(ひとみ)(のこ)つた、(かんざし)(あを)(ひかり)は、(やはら)かな(むね)(はな)れて行方(ゆくへ)()れぬ、……()(ひと)人魂(おにび)のやうに()えたのであつた。……(おな)()()時分(じぶん)

裏家(あちら)では、今夜(こんや)、お(さん)のやうでございます……」

 と()つた、お()さんは、あとじさりに蚊帳(かや)(もぐ)つた。

 (かぜ)()んでも(あめ)にも()らず……(はげ)しい(あつ)さに()られなかつた、唯吉(たゞきち)曉方(あけがた)()つてうと/\するまで、垣根(かきね)一重(ひとへ)(へだ)てながら、産聲(うぶごゑ)()ふものも()かなかつたのである。

「お可哀相(かはいさう)に……あの(かた)は、昨晩(ゆうべ)釣臺(つりだい)で、病院(びやうゐん)へお(はひ)りなすつたさうでございます。」

「やあ。(さん)(おも)かつたか。」

嬰兒(あかんぼ)()んで()ましたとも(まを)しますが、如何(いかゞ)でございますか、()にしろお()(どく)でございますねえ。」

 二月(ふたつき)ばかり()つと、(ばあ)やが一人(ひとり)留守(るす)をしたのが引越(ひつこ)したツ(きり)(なん)とも、()れぎり樣子(やうす)()かずに()ごす。

 生死(しやうし)()らぬが、……いま唯吉(たゞきち)が、屋根越(やねごし)に、(まど)(まど)とに相對(あひたい)して、もの()ふは(すなは)()婦人(をんな)なのである。……

「まあ、」

 と美人(びじん)は、團扇(うちは)敷居(しきゐ)(かへ)して、ふいと打消(うちけ)すらしく、()(とき)()ふやう。

 どんなに(わたし)厚顏(あつかま)しうござんしたつて、貴方(あなた)(むし)()つて、()てて(くだ)さいなんぞと、そんな(こと)(まを)されますものですか。

 あの……」

 派手(はで)(こゑ)ながら、姿(すがた)ばかりは(つゝ)ましさうに、

「そんな(こと)ではありません。お(ねが)ひと(まを)しますのは……」

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