魔法罎

5話

1,085字 約2分 2011年10月9日 公開

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 室内(しつない)一面(いちめん)濛々(もう/\)とした(うへ)へ、あくどい黄味(きみ)()びたのが、生暖(なまぬる)()(つく)つて、むく/\(あわ)()くやうに、……獅噛面(しかみづら)切齒(くひしば)つた窓々(まど/\)の、隙間(すきま)()隙間(すきま)天井(てんじやう)廂合(ひあはひ)から流込(ながれこ)む。

 (うはさ)()らなかつた隧道(トンネル)(これ)だとすると、(おと)(ひゞ)いた笹子(さゝご)可恐(おそろ)しい。一層(いつそ)中仙道(なかせんだう)中央線(ちうあうせん)で、名古屋(なごや)(おほまは)りをしようかと(おも)つたくらゐ。

(なん)にしろ(ひど)いぞ、(これ)は……(どく)(もつ)(どく)(せい)すと()れ。」

 で、(たもと)から卷莨(まきたばこ)()つて、燐寸(マツチ)()つた。(くち)(さき)に《ぱつ》と()えた()勢付(いきほひづ)いて、(わざ)(けむり)(ふか)()つて、石炭(せきたん)(くさ)いのを(さら)つて吹出(ふきだ)す。

 ()もやゝ(さわや)かに()つて、(ほつ)呼吸(いき)をした(とき)――ふと、(いや)、はじめてと()はう、――(かれ)()けた(はす)に、(むか)(がは)腰掛(こしかけ)に、(たゝ)まり(つも)(きり)(なか)に、()ちて(おち)かさなつた(うつく)しい(かげ)()た。

 (かげ)ではない、(いろ)ある(きぬ)(なまめ)かしいのを()たのである。

(をんな)()る。」

 (しか)二人(ふたり)、……

 と(みと)めたが、萎々(なえ/\)として、兩方(りやうはう)左右(さいう)から、一人(ひとり)一方(いつぱう)(ひざ)(うへ)へ、一人(ひとり)一方(いつぱう)の、おくれ()(みだ)れた(かた)へ、(そで)(おもて)をひたと(おほ)うたまゝ、寄縋(よりすが)抱合(いだきあ)ふやうに、俯伏(うつぶ)しに()つて(なや)ましげである。

 姿(すがた)を、()うして(たを)やかに折重(をりかさ)ねた、(そで)(いろ)は、()萌黄(もえぎ)である。(ふか)(むらさき)である。いづれも(うへ)()羽織(はおり)とは()れたが、縞目(しまめ)(わか)らぬ。()ふまでもなく(もん)があらう。(しか)し、(けむり)(つゝ)まれて、朦朧(もうろう)としてそれは()えぬ。

 小袖(こそで)判然(はつきり)せぬ。が、二人(ふたり)とも紋縮緬(もんちりめん)()ふのであらう、(しぼ)つた、(にじ)んだやうな斑點(むら)のある()長襦袢(ながじゆばん)()たのは(たしか)。で、(から)()つた()つの(そで)から、萌黄(もえぎ)()(むらさき)とが(いろ)()けて、()ツにはら/\と(みだ)れながら、しつとりと(もつ)()つて、(つま)(くれなゐ)(みだ)れし姿(すがた)。……

 ()(しか)(くれなゐ)は、俯向(うつむ)いた(えり)(すべ)り、(もた)れかゝつた衣紋(えもん)(くづ)れて、(はだへ)()く、とちらめくばかり、氣勢(けはひ)(しづ)んだが燃立(もえた)つやう。

 ト()(むね)を、萌黄(もえぎ)(こぼ)れ、(むらさき)()れて、伊達卷(だてまき)であらう、一人(ひとり)は、鬱金(うこん)の、一人(ひとり)朱鷺色(ときいろ)の、だらり(むす)びが、ずらりと(なび)く。

「おや/\女郎(ぢよらう)かな。」

 雖然(けれども)襦袢(じゆばん)ばかりに羽織(はおり)()けて(たび)をすべき所説(いはれ)はない。……駈落(かけおち)(おも)ふ、が、頭巾(づきん)(かぶ)らぬ。

 (かほ)入違(いれちが)ひに、(かた)前髮(まへがみ)()せた(はう)は、此方(こちら)()きに、やゝ俯向(うつむ)くやうに(むらさき)(そで)(おほ)ふ、がつくりとしたれば、(かげ)()つて、(かみ)(かたち)(みと)められず。

 ()の、(ひざ)萌黄(もえぎ)(そで)折掛(をりか)けて、突俯(つゝぷ)した(はう)は、(しぼり)鹿()()か、ふつくりと緋手柄(ひてがら)()けた、もつれ()はふさ/\と()れつつも、(けむり)()けた(びん)(つや)結綿(ゆひわた)()つて()た。

 此女(このをんな)(うへ)(すわ)つて、(むらさき)(をんな)が、(なゝ)めになよ/\と(こし)()けた。(おと)した(もすそ)も、(かゞ)めた(つま)も、痛々(いた/\)しいまで(みだ)れたのである。

 年紀(とし)のころは()ふまでもない、(うへ)(かさ)ねた(きぬ)ばかりで、手足(てあし)(おな)(しろ)さと()るまで、寸分(すんぶん)(たが)はぬ脊丈恰好(せたけかつかう)

 ……と()ふ、()脊丈恰好(せたけかつかう)が?……

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