魔法罎

8話

1,228字 約2分 2011年10月9日 公開

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 (べに)さいた(ふた)ツの愛々(あい/\)しい(くちびる)が、()てて櫻貝(さくらがひ)()つて(おと)するばかり、(つき)にちら/\と、それ、彼處(あすこ)此處(こゝ)に――

「あゝ、(さむ)い。」

 温泉(をんせん)()かうとして、菊屋(きくや)廣袖(どてら)着換(きか)へるに()けても、途中(とちう)胴震(どうぶる)ひの()まらなかつたまで、(かれ)(すく)なからず(おびや)かされたのである。

 東京(とうきやう)出程()(とき)から、諏訪(すは)に一(ぱく)豫定(よてい)して、旅籠屋(はたごや)(こゝろざ)した町通(まちどほ)りの()菊屋(きくや)であつた。

 心細(こゝろぼそ)(こと)には、鹽尻(しほじり)でも、一人(ひとり)(おな)(しつ)乘込(のりこ)まなかつた。……()宿(しゆく)()は、八重垣姫(やへがきひめ)と、隨筆(ずゐひつ)()で、餘所(よそ)ながら、未見(みけん)知己(ちき)初對面(しよたいめん)從姉妹(いとこ)と、伯父(をぢ)さんぐらゐに(おも)つて()たのに。………

 下諏訪(しもすは)()ると、七八(にん)田螺(たにし)()きさうな、(しか)娑婆氣(しやばつけ)商人風(あきんどふう)のが()(ひか)らして、ばら/\と(はひ)つて()た。()(なか)一人(ひとり)、あの、()(をんな)二人(ふたり)()(ところ)へ、()まして(こし)()けた(をとこ)があつた。

 はつと(おも)つたが、一向(いつかう)平氣(へいき)で、甲府(かふふ)飯田町(いひだまち)乘越(のりこ)すらしい。上諏訪(かみすは)(かれ)下車(げしや)した(とき)まで、(べつ)何事(なにごと)もなく、(くさ)にも()にも()らず、(さけ)のみと()えて、(はな)(さき)(あか)いのが、()のまゝ(かき)()にも()らないのを(むし)(あやし)む。

 はじめ、もう()のあたりから、(やま)()(べう)として諏訪(すは)(みづうみ)(みづ)()(よし)()いては()たが、ふと心着(こゝろづ)かずに()ぎた、――()にして、(をんな)(あと)ばかり(なが)めて()たので。

 改札口(かいさつぐち)(つめた)()ると、四邊(あたり)(やま)(かげ)に、澄渡(すみわた)つた(みづうみ)(つゝ)んで、(つき)照返(てりかへ)さるゝ(ため)か、(うるし)(ごと)(つや)やかに、(くろ)く、()玲瓏(れいろう)として透通(すきとほ)る。

 (しろ)きは町家(まちや)屋根(やね)であつた。

 (みづ)から()いた(かげ)のやうに、すら/\と(くろ)(あふ)つて、(くるま)が三(だい)、つい()(まへ)から駈出(かけだ)した。

 ――(くるま)が三(だい)(ひと)が三(にん)――

()てよ、先刻(さつき)紳士(しんし)は、あゝして、鹽尻(しほじり)下車(おり)たと(おも)ふが、……(それ)とも(しつ)()へて此處(こゝ)まで()たか、(くるま)が三(だい)(そろ)つて。」

 と()る、()(まへ)へ、黄色(きいろ)提灯(ちやうちん)()(なが)れて、がたりと(あを)()つた函車(はこぐるま)曳出(ひきだ)すものあり。提灯(ちやうちん)には(あか)(しべ)で、(くるま)には(しろ)(もん)で、菊屋(きくや)(みせ)相違(さうゐ)ない。

一寸(ちよいと)菊屋(きくや)(むかひ)かい。」

()うで。」

 とぶつきら棒立(ぼうだち)仲屋(なかや)小僧(こぞう)()()の、から(すね)の、のツぽが(こた)へる。

「おい、其處(そこ)()くんだ、(くるま)はないかね。」

(いま)ので出拂(ではら)つたで、」

出拂(ではら)つた……()うか。……餘程(よつぽど)あるかい。」

(なに)、ぢき其處(そこ)だよ。旦那(だんな)毛布(けつと)(あづか)ろかい。」

 (しま)膝掛(ひざかけ)(はこ)()せて、

()もつも寄越(よこ)すが()いよ。」

追剥(おひはぎ)のやうだな。」

 と(おも)はず(わら)つたが、これは(わか)らなかつた。(やつこ)はけろりとして、(つめた)いか、日和下駄(ひよりげた)をかた/\と高足(たかあし)踏鳴(ふみな)らす。

「おい()た。」

 と()さうとした信玄袋(しんげんぶくろ)は、(かへり)みるに(あま)りに(かる)い。(はこ)()せると、ポンと飛出(とびだ)しさうであるから遠慮(ゑんりよ)した。

「これは()いよ。」

()うかね、では、(はや)()さつせいよ。(さむ)いから。」

 ありや、と威勢(ゐせい)よく頭突(づつき)(かゞ)んで、鼻息(はないき)をふツと()き、一散(いつさん)(くろ)()つてがら/\と月夜(つきよ)駈出(かけだ)す。……

 (しゝ)飛出(とびだ)したやうに(また)(おどろ)いて、(かれ)(ひろ)(つじ)一人(ひとり)()つて、店々(みせ/\)電燈(でんとう)(かず)より(おほ)い、大屋根(おほやね)(いし)蒼白(あをじろ)(かず)()た。

 紙張(かみばり)立看板(たてかんばん)に、(浮世(うきよ)(なみ)。)新派劇(しんぱげき)とあるのを()た。()浮世(うきよ)(なみ)に、(なが)()つた枯枝(かれえ)であらう。(あら)ず、(みづうみ)(ふゆ)(いろど)る、(くれなゐ)二葉(ふたは)三葉(みは)

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