沓掛時次郎 三幕十場

2話 〔序幕〕 第二場 三蔵の家の前

1,055字 約2分 2019年6月11日 公開

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一軒家の三蔵の家から少し離れて路に沿うて鎮守の森がある。その前に博徒磯目の鎌吉、苫屋の半太郎、大野木の百助が襷鉢巻で長脇差を抜いて立っている。すこし離れて旅人の博徒沓掛時次郎、いでたちは同じ様だが懐手をしてぶらぶらしている。三人は一方に固まり、ひそひそと相談を始める。時次郎はそれを尻目にかけ、せせら笑いをしている。

大野木 じゃあ俺からいおう。(時次郎に向う。そのあとに磯目と苫屋がついている)沓掛の。

時次郎 なんでござんす。

大野木 外で張番をするのが、厭なら、遠慮なく引揚げて行きねえ。

磯目  贅沢をいうのも大抵にしろい。

苫屋  こっちは生え抜きの身内だい。

大野木 待ちねえ待ちねえ。俺に任せときあいいじゃねえか。(二人を宥(なだ)め)沓掛の。

時次郎 おい。

大野木 俺達がもともといい出して、今夜のことは持ちあがったのだ。お前はただ横合から、一緒に行きていといい出したのを親分がウンといっただけのものだ。つまりお前は見に来たのだ。六ツ田の三蔵の首を挙げるのは俺達三人のすることで、お前の役じゃねえや。

時次郎 だから、どうなのでござんす。

苫屋  邪魔しねえで見ていろッてのだ。わかったかい。

磯目  構わねえで少しも早く仕事にかかろうぜ。素人共は変に三蔵をひいきにしやがるから、ことによるとあの野郎の耳に今夜のことが入っているかも知れねえ。ズラかられちゃ玉なしだ。

大野木 沓掛の、もう一遍いうぜ。首を挙げるのは俺達三人の役だ、お前の役じゃねえんだよ。わかったな。

時次郎 わからねえ。

苫屋  なんだと。

大野木 ここで喧嘩しちゃいけねえ。

時次郎 三蔵ッて人は強(きつ)いのでござんすか。

磯目  何が強(つよ)いものかい。多寡の知れた奴だ。

時次郎 成程、それじゃ俺の腕はいらねえ筈でござんす。

苫屋  ちえッ、三蔵の腕ッ節が強いからこうして三人撰り抜きで来ているのだい。手前なんかが行けば直ぐバッサリだ。

大野木 ちゃんと断っておくぜ。外で見張りをしているのだぜ。見張りで役不足ならさっさと帰ってくれ。いいかおい。(二人に)さ、踏ン込もう。

磯目  合ッ点だ。(三蔵の家の戸を叩く)

苫屋  (鼻をつまみ作り声をして)今晩は、ちょいとお開けなすって。名主さんから不時触れが出ましたので。――今晩は。(身構える)

大野木 (雨戸の開くのを待ち構えて、今にも躍り入ろうと身構える)

時次郎 (ふてぶてしく、森の前に腰を据え、三人のすることをせせら笑って見ている)

磯目  今晩は、――今晩は。

苫屋  畜生め。開けねえな。勝手にしやがれ。(磯目と共に激しく叩く)

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