先生を囲る話

8話 八 随筆の弁

724字 約1分 2019年11月28日 公開

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 初めて伺った時に聞いた話にこんなのがある。

 僕みたい絵も描きたいし、音楽は好きだし、それに変なものも書きたいし、こんな道楽者は物理なんかやるんじゃなかった。もう断然何も書くまいと決心していても、雑誌社の人などは実に根気よく頼みにくるし、それにあまり頼まれると気の毒になる性質だから、つい書いてみる気になってしまうんだ。それに、ちょっと小使いにもなるからなかなか工合の良いこともあるね。夏目先生が『猫』の最初の原稿料だったか、二十円位はいってきたことがあったが、先生あぶく銭がはいったのでとても嬉しくてどうしようかと色々考えた末、丸善かどこかへ出掛けて行って、水彩画の絵具一式と、ワットマンか何かの引き裂くと絵葉書になる紙を綴ったのを一冊と、それから象牙の紙切ナイフとを買ってこられたことがある。きっと平生から欲しいと思っておられたものを買ってこられたんだろう。ちょっとそういう気になって楽しみなものだよ。まだ原稿料で生活の方を何とかしようというほど家計も困っていないし、またそれほど堕落もしていないが、ちょいちょい不意のあぶく銭が入ると、ちょっと都合の良いこともあってね。

 こんな時にはちょっと気まり悪そうにして独特の微苦笑を洩されるのである。これが初めて御宅へ伺った学生の一人へ話される言葉なのである。

 実はそれに僕はこう見えても科学普及ということにもかなり自信を持っているんだ。この頃の科学何とかという雑誌や本のような趣味の低いものでは、とても駄目だ。僕は科学的に考える方法というものを日常の生活に取り入れることをかなり注意して書いているつもりなんだ。だから僕の本などは極少数の人だけがアップレシエートしてくれればそれで良いのだと思っている。

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