2話 千載一遇の好機会
読み方を変える
支那は古来政治上にも、軍事上にも、法制の上にも、はたまた文学芸術の上にも大なる天才を出した。そういう優れた民族が中毒性に罹って衰えたのである。それでこれを救うには、宜しく解毒剤を施すに限る。毒を解いてやるのが必要だ。今次数度の革命は一体何から起ったかというに、人に由って色々な観察をなしている。これを以て単に権力の争奪から起ったのであるという者もあるけれども、必ずしもそればかりではあるまい。つまり、西洋の文明――高度なる文明に接触して多年の宿弊を一掃しようと志したので起ったのだと思う。同じく東洋に国を為している日本が逸早く世界的文明の潮流に棹さして、彼の長を採ると共に我の短を補い、およそ世界の善を見てこれに移った結果、今日の新文明を産み出したのを見ると、日本と同文同種なる支那もまた現在の境遇より脱却しようと思い立ったと同時に、欧州列国の圧迫もあるので、ついにいわゆる変法自疆を行い、科挙の制を廃して新学を興し、以て人材登庸の道を与えようとしたのである。これはもっともな次第である。即ち日本の文明――明治の維新と共に世界的競争に堪え得らるるに至った国運の発展――日本今日の勃興こそ支那民族に対する一大刺戟となり、これが中毒症に悩んでいる支那民族には一種の良薬となった訳だ。日本の開国は提督ペルリの来朝が大なる刺戟となったと同様、支那は今やまさにこの一大刺戟者たる日本の勃興に促されて、百般の改革を断行せんとするのだ。あるいは当局の措致に不満足なところがあるに由って、あの様に数次の革命を重ねねばならなかったが、革命思想――革命思想の起る源は何としても日本の勃興に在る。他日日本の如く大革新を成し遂げて、現今の国際競争に堪うるだけの国家を組織し、十分なる政治の能力を発揮し、社会の秩序を正し、人民の幸福を増進すると共に賄賂公行、盗賊跋扈というが如き悪俗から脱却することが出来れば、其処で初めて国運を復活せしむることが出来るであろう。
しかし、こはなかなか困難だ。なかなか容易ならぬ業である。それは如何なる理由に因るかといえば、今日支那の四境を圧迫する文明は、従来の歴史にあるが如き低度の文明とは異って、更に高度なる文明である。支那がそのために覚醒して十分なる発達を遂げ、強固なる国家となって、この高度の文明の圧迫を防ごうとするも、それは到底一朝一夕の事業ではない。それのみならず、支那が改革を断行しつつある間には、いかなる故障が起らぬとも限らぬ。始終支那よりも高度なる文明を有する列国の圧迫が絶えず来るであろう。それだけ支那の改革は猶予さるる訳だ。四境を圧迫する高度の文明国はそれぞれ利害関係を支那に対してもっている。其処で勢い衝突が起る。利害の衝突が起る。幸い今は列国が欧州の広野に鎬を削っている。支那が十分に覚醒して、十分に信頼し、国家的基礎を固むるには絶好の機会である。支那が日本に驥足を展ばすのは、今日を措いて他にない。千載一遇である。