永久に不愉快な二重生活

1話 永久に不愉快な二重生活

560字 約1分 2007年7月10日 公開

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 中村(なかむら)さん。

 問題が大きいので、ちよいと手軽に考をまとめられませんが、ざつと思ふ所を云へばかうです。

 元来芸術の内容となるものは、人としての我々の生活全容(ぜんよう)(ほか)ならないのだから、二重生活と云ふ事は、第一義的にはある筈がないと考へます。

 が、それが第二義的な意味になると、いろいろむづかしい問題が起つて来る。生活を芸術化するとか、或は逆に芸術を生活化するとか云ふ事も、そこから起つて来るのでせう。

 あなたの手紙にあつた芸術家の職業問題などは、それを更に一歩皮相(ひさう)な方面へ移して来ての問題だと思ひます。

 だから「物心(ぶつしん)両面に()ける人としての生活と、芸術家としての生活の関係交渉」と云つても、それぞれの意義に相当な立場をきめてかからないと、折角(せつかく)の議論は混乱するより(ほか)にありますまい。

 所で(わたし)は前にも云つたやうに、今さう云ふ問題を(べん)じてゐる(ひま)がない。

 が、()ひて何か云はなければならないとなると、職業として私は英語を教へてゐるから、そこに起る二重生活が不愉快で、しかもその不愉快を超越(てうゑつ)するのは全然物質的の問題だが、生憎(あいにく)それが現代の日本では当分解決されさうもない以上、永久に我々はこの不愉快な生存を続けて()く外はないと云ふ位な、(はなはだ)平凡な事になつてしまひます。

 これでよかつたら、どうか諸家の解答の中へ加へて下さい。以上。

(大正七年十月)

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