三両清兵衛と名馬朝月

3話 すわこそ、主君あやうし!

817字 約2分 2021年6月21日 公開

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 夜明けに間もなかった。月がすッと山のかなたに落ちていったと思うと、林や谷のあたりから、天地もくずれるばかりのときの声が上がって、金鼓(きんこ)銅鑼(どら)の音がとどろきわたった。明軍(みんぐん)は月の入りを待っていたのである。うしおのように、(さく)の外までおしよせてくると、待ちかまえていた日本軍――浅野幸長(あさのゆきなが)太田飛騨守(おおたひだのかみ)宍戸備前守(ししどびぜんのかみ)以下、各将(かくしょう)のひきいる二万の軍兵(ぐんぴょう)は、城門(じょうもん)サッとおしひらき、まっしぐらに突撃(とつげき)した。不意をおそうつもりだった明軍は、かえって日本軍に不意をうたれたかたちで、

「これは――」

 とばかり、おどろきあわて、見ぐるしくも七、八町みだれしりぞき、清水(せいすい)という川のところでやっとふみとどまった。

 川音清兵衛(かわおとせいべえ)、今日こそ手柄(てがら)をたてんものと、いつも先陣(せんじん)に馬をかけさせていたが、このときうしろの小高い山かげから、ど、ど、どと、山くずれのような地ひびき立てて、大将軍刑(たいしょうぐんけいかい)指揮(しき)する数万の明兵(みんぺい)が、昇天(しょうてん)(りゅう)の黒雲をまくように、土けむりを立てて、まっさか落としに()めくだってきた。

「さては伏兵(ふくへい)、急ぎ(しろ)へ引っ返せ!」

 城中から、清正(きよまさ)の使者がとんできたときには、日本軍はまったくうしろを()たれ、君臣(くんしん)たがいに散り散りになって、生死も知らぬありさまだった。宍戸備前守(ししどびぜんのかみ)は、わずかに八人に守られて、もう()()にの覚悟(かくご)で戦っている。そこへ、かけつけたのは清兵衛(せいべえ)で、大声にさけんだ。

殿(との)、早々、御城(おしろ)へお退(しりぞ)きなされませ。拙者(せっしゃ)朝月(あさづき)先登(せんとう)つかまつります。朝月、一()の大事、たのむぞ」

 ぴしっと(ひと)むちくれて、あとをかこんだ明兵(みんぺい)の中にとびこんだ清兵衛(せいべえ)は、(やり)をふるってなぎたてた。朝月は朝月で、近づく敵兵の(かた)(うで)(かぶと)のきらいなくかみついてはふりとばし、また、まわりの敵をけちらしふみにじる。この勢いに、勝ちほこった明兵(みんぺい)もおじけ立って、わあッ! と左右に道を開くと、

殿(との)、この道を、この道を――」

 清兵衛は血槍(ちやり)で、そこに開けた道を()してさけんだ。

 宍戸備前守(ししどびぜんのかみ)は、そこをまっしぐらに城へと馬を走らせた。

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