3話 すわこそ、主君あやうし!
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夜明けに間もなかった。月がすッと山のかなたに落ちていったと思うと、林や谷のあたりから、天地もくずれるばかりのときの声が上がって、金鼓、銅鑼の音がとどろきわたった。明軍は月の入りを待っていたのである。うしおのように、柵の外までおしよせてくると、待ちかまえていた日本軍――浅野幸長、太田飛騨守、宍戸備前守以下、各将のひきいる二万の軍兵は、城門サッとおしひらき、まっしぐらに突撃した。不意をおそうつもりだった明軍は、かえって日本軍に不意をうたれたかたちで、
「これは――」
とばかり、おどろきあわて、見ぐるしくも七、八町みだれしりぞき、清水という川のところでやっとふみとどまった。
川音清兵衛、今日こそ手柄をたてんものと、いつも先陣に馬をかけさせていたが、このときうしろの小高い山かげから、ど、ど、どと、山くずれのような地ひびき立てて、大将軍刑の指揮する数万の明兵が、昇天の竜の黒雲をまくように、土けむりを立てて、まっさか落としに攻めくだってきた。
「さては伏兵、急ぎ城へ引っ返せ!」
城中から、清正の使者がとんできたときには、日本軍はまったくうしろを断たれ、君臣たがいに散り散りになって、生死も知らぬありさまだった。宍戸備前守は、わずかに八人に守られて、もう討ち死にの覚悟で戦っている。そこへ、かけつけたのは清兵衛で、大声にさけんだ。
「殿、早々、御城へお退きなされませ。拙者と朝月が先登つかまつります。朝月、一期の大事、たのむぞ」
ぴしっと一むちくれて、あとをかこんだ明兵の中にとびこんだ清兵衛は、槍をふるってなぎたてた。朝月は朝月で、近づく敵兵の肩、腕、兜のきらいなくかみついてはふりとばし、また、まわりの敵をけちらしふみにじる。この勢いに、勝ちほこった明兵もおじけ立って、わあッ! と左右に道を開くと、
「殿、この道を、この道を――」
清兵衛は血槍で、そこに開けた道を指してさけんだ。
宍戸備前守は、そこをまっしぐらに城へと馬を走らせた。