三両清兵衛と名馬朝月

4話 悲しい籠城

955字 約2分 2021年6月21日 公開

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 有名な蔚山籠城(うるさんろうじょう)(まく)は、切って落とされたのである。

 明軍は、城の三方をひたひたとおしつつみ、夜となく昼となく、鉄砲(てっぽう)をうちかけた。

 明軍(みんぐん)にかこまれると、すぐに糧食(りょうしょく)はたたれてしまったが、味方の勇気はくずれなかった。よくかためよく防ぎ戦った。だが難戦苦闘(なんせんくとう)である。(さく)はやぶられた。石垣(いしがき)のあたりには、敵味方の死者がころがった。鼻をつく鮮血(せんけつ)のにおい、いたでに苦しむもののうめきは夜空に風のようにひびいた。

 城中(じょうちゅう)には飲む水さえなくなった。

「なにくそッ」

 将士(しょうし)は、(ひたい)から流れて(かぶと)のしのびの()つららになった(あせ)をヒキもぎり、がりがりかんでかわきをとめながら戦った。食うものがすくないので、しかたなく馬をほふってたべねばならなくなった。

拙者(せっしゃ)の馬をころすやつがあったら、この(こし)の刀に物いわせるぞ」

 清兵衛(せいべえ)はがんばった。そして、日に一度ぐらい(わた)されるにぎりめしを自分は食わずに馬に食わせたり、また、戦場にころがった明兵(みんぺい)の腰から、兵糧(ひょうろう)をさぐって朝月(あさづき)にあたえた。

「清兵衛の馬をいかしておくのは、もったいないな」

「朝月もやってしまおう」

 ある夜、清兵衛が徒歩で、(しろ)の外に出ていったのを知った城兵(じょうへい)二、三人は、うまやにしのんで、朝月をころして食おうとした。そして、(やり)をひねってつき殺そうとした、(かい)(ぱつ)

「ヒ、ヒン」

 いなないた朝月は、たづなをふり切って、その(やり)を取った兵の(かた)さきに、電光石火の早さでかぶりつくと、大地にたたきつけた。それと見てにげ出そうとした一人(ひとり)は、腰をけとばされて息もできずのめってしまった。

 それがために、もう、だれもおそれて、朝月を殺して食いたいなどと思う者はなくなった。

「よくやった。よくやっつけた」

 清兵衛(せいべえ)は、朝月の首をだいてうれしなきにないた。

「朝月、死ぬ時にはいっしょだぞ。よいか、よいか――おお、まだ、水を今日はのませなかったな、待てよ」

 清兵衛は、大地にふり積もった雪を、(かぶと)の中にかきこみ、火をたくにも(たきぎ)がなかったので、自分の双手(もろて)をつっこみ、手のひらのあたたかみでもんで水にとかして、

朝月(あさづき)、のめよ」

 と口もとに持っていってやるのだった。

 心なしか朝月の大きな目がしらに、(なみだ)が光っているようだった。そしてその水をのんで、長い顔をこすりつけてくる、その顔を静かにさすって、

「朝月、やせたのう」

 と、うなだれた。

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