4話 悲しい籠城
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有名な蔚山籠城の幕は、切って落とされたのである。
明軍は、城の三方をひたひたとおしつつみ、夜となく昼となく、鉄砲をうちかけた。
明軍にかこまれると、すぐに糧食はたたれてしまったが、味方の勇気はくずれなかった。よくかためよく防ぎ戦った。だが難戦苦闘である。柵はやぶられた。石垣のあたりには、敵味方の死者がころがった。鼻をつく鮮血のにおい、いたでに苦しむもののうめきは夜空に風のようにひびいた。
城中には飲む水さえなくなった。
「なにくそッ」
将士は、額から流れて兜のしのびの緒につららになった汗をヒキもぎり、がりがりかんでかわきをとめながら戦った。食うものがすくないので、しかたなく馬をほふってたべねばならなくなった。
「拙者の馬をころすやつがあったら、この腰の刀に物いわせるぞ」
清兵衛はがんばった。そして、日に一度ぐらい渡されるにぎりめしを自分は食わずに馬に食わせたり、また、戦場にころがった明兵の腰から、兵糧をさぐって朝月にあたえた。
「清兵衛の馬をいかしておくのは、もったいないな」
「朝月もやってしまおう」
ある夜、清兵衛が徒歩で、城の外に出ていったのを知った城兵二、三人は、うまやにしのんで、朝月をころして食おうとした。そして、槍をひねってつき殺そうとした、間一髪、
「ヒ、ヒン」
いなないた朝月は、たづなをふり切って、その槍を取った兵の肩さきに、電光石火の早さでかぶりつくと、大地にたたきつけた。それと見てにげ出そうとした一人は、腰をけとばされて息もできずのめってしまった。
それがために、もう、だれもおそれて、朝月を殺して食いたいなどと思う者はなくなった。
「よくやった。よくやっつけた」
清兵衛は、朝月の首をだいてうれしなきにないた。
「朝月、死ぬ時にはいっしょだぞ。よいか、よいか――おお、まだ、水を今日はのませなかったな、待てよ」
清兵衛は、大地にふり積もった雪を、兜の中にかきこみ、火をたくにも薪がなかったので、自分の双手をつっこみ、手のひらのあたたかみでもんで水にとかして、
「朝月、のめよ」
と口もとに持っていってやるのだった。
心なしか朝月の大きな目がしらに、涙が光っているようだった。そしてその水をのんで、長い顔をこすりつけてくる、その顔を静かにさすって、
「朝月、やせたのう」
と、うなだれた。