5話 敵陣へ飯食いに
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悲しかったのは、清兵衛ばかりでなかった。城兵たちはみな悲しかった。このままうえ死にするよりも、いっそのこと、はなばなしく戦って討ち死にがしたかった。
「どうだ、おのおの、生きておればひもじいから、飯がくいたくなる。死にさえしたらなんのことはないから、今晩、殿に願って、きって出ようではないか」
「死にさえすりゃ、ひもじくはない。賛成だ」
「拙者も」
「死ね死ね」
「日本武士が朝鮮まできて、うえ死にしたとあっては恥だ。きって出ろ」
「夜討ちをかけて、敵の食物をうばったら、そいつを食って一日生きのび、明日の夜また討って出よう」
夜討ちをかけることに賛成した者は、三百人からあった。その中に、川音清兵衛も加わったのである。五、六人のものは、宍戸備前守の前にかしこまって、
「ただいまから夜討ちをかけ、敵の飯を食ってまいりとうございます」
「なに敵陣へ飯食いにまいるか」
「は、腹いっぱいになってもどってまいります」
こうして夜討ちの準備ができた。丑満ごろになると、三百余騎は城門を開き、明軍の中に突撃した。
まさかとゆだんしていたところを、おそわれた明軍は、日本軍何万かわからないので、ろうばいするところへ、得たりとばかりに、その陣に火をかけた。
「さア、いまだ、首よりもまず飯だ、飯だ!」
清兵衛は、うき足立った敵陣へ、まっしぐらに、朝月をおどりこませ、左右につきふせた敵兵の腰をさぐり、一袋の粟を発見すると、
「朝月、飯だぞ飯だぞ」
と、せわしく食わせて、自分も生の粟をほおばるのだった。
「さア――」
と、朝月に、ふたたびまたがり、乱軍の中にかけこもうとした。
「倭奴、待てッ」
えんえんともえあがる猛火に、三尺の青竜刀をあおく輝かし、ゆくてに立った六尺ゆたかの明兵があった。
「そこどけッ」
清兵衛は粟をくって、元気が出かかったところである。槍をひねってつきふせようとすると、ひらりとそれをはずした明兵は、かわしざまに、その槍の千段まきを、ななめにきり落とした。
「しまったッ」
からりと槍の柄をすてた清兵衛は、大刀をぬきはなって斬りおろせば、明兵は、左の鎧の袖でかちりと受けとめた。傷を負わなかったところをみると、よほどいい鎧であった。これには清兵衛も、いささかおどろいているところへ、すかさず明兵はうちかかってきた。
朝月は高くいなないて、あと足立ちになり、その明兵を前肢の間にだきこもうとする。
「えい」
ぐっとたづなを左手にしめて、清兵衛は二の太刀を討ちおろす。相手はぱっととびのきざま、横にはらった一刀で、清兵衛のひざがしらを一寸ばかりきった。
「あっ!」
中心を失った清兵衛は、もんどり打って馬から落ちた。とたんに二の太刀、
「えい」
と、清兵衛のかぶった椎形の兜の八幡座をきったが兜がよかったので、傷は受けなかったものの、六尺の大男の一げきに、ズーンとこたえ、目はくらくらとくらみ、思わずひざをついたところを、また明兵が一げき加えようとすると、ぱっと空をおどり、その敵におどりかかったのは朝月であった。
「おお」
気をのまれた明兵は、横にとびのいた。そのすきに立ち上がった清兵衛。
「まいれ」
ときりかかった。
朝月は畜生ながら、主人の恩を知っていた。清兵衛が立ち上がったとみて、うれしそうにいななき、明兵のうしろにかけまわって、すきがあらばとびかかろうとする。
「お、お、おッ」
明兵もおどろいた。前後に人馬の敵を受けたので必死。清兵衛は朝月の助太刀に力を得て、
「えいッ」
と、最後の突撃。さアッと太刀を横にうちふると、その太刀さきは、敵の左頬から右眼にかけ、骨をくだいて切りわったので、
「ああッ」
と、明兵はあおむけに、打ちたおれたところを、起こしも立てず、その胸にいなごのように、とびかかった清兵衛は、
「この畜生、畜、畜生――畜……」
とさけびながら、胸板をつづけさまに二太刀さして、
「まだ、まだ、まいらぬか」
と、えぐっていたが、さきほどよりの激戦に、力つきた清兵衛は、敵がたおれたと知って、そのまま、おりかさなって気絶してしまった。