三両清兵衛と名馬朝月

5話 敵陣へ飯食いに

1,661字 約3分 2021年6月21日 公開

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 悲しかったのは、清兵衛(せいべえ)ばかりでなかった。城兵(じょうへい)たちはみな悲しかった。このままうえ死にするよりも、いっそのこと、はなばなしく戦って()()にがしたかった。

「どうだ、おのおの、生きておればひもじいから、飯がくいたくなる。死にさえしたらなんのことはないから、今晩(こんばん)殿(との)に願って、きって出ようではないか」

「死にさえすりゃ、ひもじくはない。賛成だ」

拙者(せっしゃ)も」

「死ね死ね」

「日本武士が朝鮮(ちょうせん)まできて、うえ死にしたとあっては(はじ)だ。きって出ろ」

「夜討ちをかけて、敵の食物をうばったら、そいつを食って一日生きのび、明日(あす)の夜また討って出よう」

 夜討ちをかけることに賛成した者は、三百人からあった。その中に、川音清兵衛(かわおとせいべえ)も加わったのである。五、六人のものは、宍戸備前守(ししどびぜんのかみ)の前にかしこまって、

「ただいまから夜討(よう)ちをかけ、敵の飯を食ってまいりとうございます」

「なに敵陣(てきじん)へ飯食いにまいるか」

「は、(はら)いっぱいになってもどってまいります」

 こうして夜討ちの準備ができた。丑満(うしみつ)ごろになると、三百()()城門(じょうもん)を開き、明軍(みんぐん)の中に突撃(とつげき)した。

 まさかとゆだんしていたところを、おそわれた明軍は、日本軍何万かわからないので、ろうばいするところへ、()たりとばかりに、その陣に火をかけた。

「さア、いまだ、首よりもまず飯だ、飯だ!」

 清兵衛(せいべえ)は、うき足立った敵陣へ、まっしぐらに、朝月(あさづき)をおどりこませ、左右につきふせた敵兵の(こし)をさぐり、一(ふくろ)(あわ)を発見すると、

「朝月、飯だぞ飯だぞ」

 と、せわしく食わせて、自分も生の(あわ)をほおばるのだった。

「さア――」

 と、朝月に、ふたたびまたがり、乱軍(らんぐん)の中にかけこもうとした。

倭奴(わど)、待てッ」

 えんえんともえあがる猛火(もうか)に、三(じゃく)青竜刀(せいりゅうとう)をあおく(かがや)かし、ゆくてに立った六(しゃく)ゆたかの明兵(みんぺい)があった。

「そこどけッ」

 清兵衛(せいべえ)(あわ)をくって、元気が出かかったところである。(やり)をひねってつきふせようとすると、ひらりとそれをはずした明兵(みんぺい)は、かわしざまに、その(やり)の千(だん)まきを、ななめにきり落とした。

「しまったッ」

 からりと(やり)()をすてた清兵衛(せいべえ)は、大刀をぬきはなって()りおろせば、明兵は、左の(よろい)(そで)でかちりと受けとめた。(きず)を負わなかったところをみると、よほどいい鎧であった。これには清兵衛も、いささかおどろいているところへ、すかさず明兵はうちかかってきた。

 朝月(あさづき)は高くいなないて、あと足立ちになり、その明兵(みんぺい)前肢(まえあし)の間にだきこもうとする。

「えい」

 ぐっとたづなを左手にしめて、清兵衛(せいべえ)は二の太刀(たち)()ちおろす。相手はぱっととびのきざま、横にはらった一刀で、清兵衛のひざがしらを一(すん)ばかりきった。

「あっ!」

 中心を失った清兵衛は、もんどり打って馬から落ちた。とたんに二の太刀(たち)

「えい」

 と、清兵衛のかぶった椎形(しいがた)(かぶと)の八幡座(まんざ)をきったが兜がよかったので、傷は受けなかったものの、六(しゃく)の大男の一げきに、ズーンとこたえ、目はくらくらとくらみ、思わずひざをついたところを、また明兵(みんぺい)が一げき加えようとすると、ぱっと空をおどり、その敵におどりかかったのは朝月であった。

「おお」

 気をのまれた明兵(みんぺい)は、横にとびのいた。そのすきに立ち上がった清兵衛(せいべえ)

「まいれ」

 ときりかかった。

 朝月(あさづき)畜生(ちくしょう)ながら、主人の恩を知っていた。清兵衛が立ち上がったとみて、うれしそうにいななき、明兵のうしろにかけまわって、すきがあらばとびかかろうとする。

「お、お、おッ」

 明兵もおどろいた。前後に人馬の敵を受けたので必死。清兵衛は朝月の助太刀(すけだち)に力を()て、

「えいッ」

 と、最後の突撃(とつげき)。さアッと太刀(たち)を横にうちふると、その太刀さきは、敵の左頬(ひだりほお)から右眼(うがん)にかけ、(ほね)をくだいて切りわったので、

「ああッ」

 と、明兵(みんぺい)はあおむけに、打ちたおれたところを、起こしも立てず、その(むね)にいなごのように、とびかかった清兵衛(せいべえ)は、

「この畜生(ちくしょう)、畜、畜生――畜……」

 とさけびながら、胸板(むないた)をつづけさまに二太刀(ふたたち)さして、

「まだ、まだ、まいらぬか」

 と、えぐっていたが、さきほどよりの激戦(げきせん)に、力つきた清兵衛は、敵がたおれたと知って、そのまま、おりかさなって気絶(きぜつ)してしまった。

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