宇宙怪人

5話 魔法の鏡

2,958字 約6分 2017年6月16日 公開

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 北村さんの話はつづきます。

「そのとき、ぼくは、銀色のひかりの中で、トカゲの怪物をハッキリ見たのですが、ぜんたいのかたちが、どことなく人間に似ているのが、ふしぎでした。手と足があって、足だけで立つこともできるのです。星の世界でも、いちばん便利なかたちは、やっぱり、地球の人間とおなじなのかと、みょうな気がしました。

 しかし、この怪物は、人間のおよびもつかない武器を持っています。あの大きなはねです。地球の人間は飛行機にのらなければ、空を飛ぶことができないのに、やつは、自分で飛ぶことができるのです。そのうえ、手足の指のあいだに、水かきのようなものがついているのをみると、きっと、泳ぎも、うまいのでしょう。ワニのように、水をもぐったり、およいだりできるのでしょう。

 水、陸、空、どこでも、自由に動きまわれるという怪物です。いや、怪物どころか、もっとも進歩した、万能の生物なのです。

 からだには、トカゲのような、うつくしいしまがあります。むらさきとみどりと黄色が、いりみだれて、まるで虹のようです。ただ、顔だけは、あまり、うつくしくありません。地球の動物で言えば、鳥によく似ています。目の下に鼻がなく、すぐ口になっているのです。とんがった、大きな口です。しかし、歯もきばもありません。むらさき色の歯ぐきのようなものが、見えているだけです。

 目は、きこりが言っていたとおり、ヘビの目です。じっと見られると、電気にでもかかったように、からだがすくんで、身うごきもできなくなります。地球では想像もできない、おそろしい目です。あの目を見ただけで、あらくれ男のきこりが気をうしないそうになったのも、もっともです。

 円盤につれこまれたさいしょは、怪物のすがたが、あまり、いやらしく、おそろしいので、ぼくはもう、むがむちゅうでした。あいてを見るのも、こわくて、目をつぶったまま、うつぶせになっていました。あいつのすがたを、つくづくながめるようになったのは、二、三日たって、いくらか、なれてきたからです。

 それからひと月のあいだ、ぼくはこの怪物といっしょにくらしたのですが、だんだん、なれるにつれて、あいてが、ぼくをとって食おうというわけでもなし、それに、われわれ地球の人間には、とてもかなわないほどの、すばらしい知恵を持っていることも、わかってきましたので、おそろしさが、いくらか、すくなくなりました。あの虹のようなトカゲのからだが、かえって、うつくしく思われてきたほどです。」

「だが、そいつは、なんのために、きみをさらっていったのでしょうね。べつに、危害も、くわえなかったのですか。」

 明智が、ちょっと口をはさみました。

「それを、これからお話しようと思っていたのです。ぼくをさらったわけは、地球の、人間のことばを、ならいたかったからですよ。地球人のことばといっても、むろん、ぼくは日本語しか、おしえられませんが、あいつは、日本語を、わずかひと月で、あらかたおぼえてしまったのです。じつに頭がいいのですね。一度、聞いたことは、けっして、わすれないのです。まるで、レコードのように、ちゃんと頭の中にきざみこんでしまうのです。

 すこし話ができるようになったとき、ぼくが、地球には何十という国があって、みんなことばがちがうのだと、おしえてやったら、あいつはビックリしていました。星の世界は、ぜんたいが、ひとつのことばなのでしょうね。

 では、ぼくのほうでも、あいてのことばをおぼえたかと、おっしゃるのですか。ところが、それは、まったくだめなのです。あいても、なにかペチャペチャしゃべることは、しゃべるのですが、その意味は、すこしもわかりません。あいつは日本語をおぼえるだけで、自分のことばを、ぼくにおしえようとはしません。だいいち、あいつが、どの星からやってきたかということさえ、いくらたずねても、言わないのです。円盤の機械の秘密なども、これっぽっちも、おしえてはくれません。いくども、たずねると、こわい顔をして、おこりだすので、ぼくもあきらめてしまいました。

 そんなふうに、せんぽうのことばが、すこしもわからなくて、どうして日本語を、おしえることができたかと言いますと、そこが星の世界ですね。じつに、便利な道具があるのです。ぼくはそれを魔法の鏡となづけたのですが、まったく魔法の鏡ですよ。見たところは、おぼんのような、まるい銀色の金属です。それを顔の前にもってくると、ふつうの鏡とちがって、顔はうつらないで、心がうつるのです。鏡をもっている人の、心に思っているものが、そのまま写真のように銀のおぼんの表面に、あらわれるのです。つまり、心の写真をうつすフィルムなんですね。どうしてうつるかというわけは、まったくわかりません。なにしろ、宇宙のどこにあるかわからない星の世界の科学です。地球の科学では、けんとうもつきません。魔法とでもいうほかはないのです。

 たとえば、あいてが、ぼくの服を見て、それはなんというものだと、聞きたいときには、ぼくの服を心に思えばよいのです。すると、ぼくの服と同じものが鏡にうつるので、ぼくはそれを見て『フク』と、おしえてやればよいわけです。こういうおしえかたは、絵をかいてもやれますが、魔法の鏡のほうが、どれだけ、手ばやいかわかりませんよ。

 そんなふうにして、五日ほどおしえているうちに、もう、ちょっとした会話が、できるようになりました。すると、トカゲ男は、さいしょに、おそろしいことを、ぼくに申しわたしました。

『キミ、ニゲル、ハイニナル。』

と、こう言うのです。『きみが逃げると、ハイになる。』という意味らしいのですが、『ハイ』とはなんでしょう。ハエのことでしょうか。やつは星の世界の魔法で、ぼくをいっぴきのハエにかえてしまうつもりかと、びっくりしていますと、怪人は、すばやく円盤のそとへ、とびだしていって、しばらくすると、いっぴきの小ザルを、つかまえて、もどってきました。はねがあるのですから、木の上のサルをとらえることなんか、わけはないのです。

 やつは、その小ザルを、れいのやわらかい金属で、しばりつけ、逃げだせないようにしておいて、どこからか、てのひらの中にはいるような、銀色の、小さな丸いものを持ちだしてきました。それは、一方がとがっていて、ちょうどゴムのスポイトのような形をしているのです。

 トカゲ男は、そのとがったほうを小ザルにむけて、まるい部分を、ギュッと、にぎりしめました。するとあのやわらかい弾力のある金属ですから、スポイトと同じはたらきをして、中にはいっていた、なにかのガスが、白い煙をはいて、サーッと小ザルにふきつけられたのです。

 ああ、思いだしても、ゾッとします。あれは、なんという、おそろしいガスでしょう。それを、ふきかけられた小ザルは、アッというまに消えてしまったのです。そして、小ザルのいたあとに、ひとつかみの灰がのこっているばかりでした。いっぴきの動物が、一しゅんかんに、ひとつかみの灰にかわってしまったのです。

 これで『ハイ』の意味が、わかりました。ハエではなくて、灰だったのです。怪人は、おまえも、逃げだそうとすれば、このとおり、灰にしてしまうぞと、実物で見せてくれたわけです。」

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