海底の魔術師

12話 海底の大闘争

1,930字 約4分 2016年12月24日 公開

読み方を変える
字の大きさ
行の間隔
1行の長さ
書体
配色
組み方

「おやっ、へんなものがいるぞ、いったい、あれはなんだろう。」

 技師はギョッとして、潜航艇の背中を見つめました。前についている二つの目だまの光が、あまり強いので、背中の方は、よく見えなかったのですが、そこに、おそろしいものが、うずくまっていたのです。

 鉄の人魚です。鉄の顔、鉄のトサカ、耳までさけた口から、二本の牙がニューッとつき出していて、からだはワニのような怪物です。そいつが、魚形潜航艇の背中に、ヤモリのようにペッタリくっついて、青く光る目で、じっと、こちらをにらんでいるのです。

 技師は、鉄の玉の中にはいっているのですから、どんな怪物がやってきても、へいきなのですが、しかし、かれは、鉄の人魚の姿のおそろしさに、ゾーッとして、からだがすくんでしまいました。

 魚形潜航艇は、すぐ目の前にきていました。むこうは、自由じざいに動けるのに、こちらはハヤブサ丸からロープでつりさげられているのですから、にげることもできません。技師は潜水機の中にある電話機をとって叫びました。

「はやく引きあげてくれえ……。おそろしい潜航艇がやってきた。その背中に、鉄の人魚がのっている……。」

「なに、潜航艇だって? それはほんとうかっ。」

 ハヤブサ丸の船長の声が、ききかえしてきました。

「そうだ。さかなのかたちをした、おそろしい潜航艇だ。もう目の前に近づいてきた。あぶない。はやく、はやく、引きあげてくださいっ。」

 すると、ハヤブサ丸では、引きあげ作業をはじめたらしく、潜水機はすこしずつ、上の方へのぼっていきます。

 そのとき、ギョッとするようなことが、おこりました。

 目の前の、魚形潜航艇の、まるい口のような穴から、ヘビの舌みたいな、長い黒い棒が、パッと、とびだしてきたのです。その棒のさきは二つにわれていて、ものをはさむようになっていました。そして、そのハサミが、技師の乗っている潜水機の上の方へ、のびてきたのです。

 技師はいそいで、上にひらいている小さなガラス窓からのぞきました。あっ、怪物の鉄のハサミは、潜水機をつりあげているロープを、はさもうとしているではありませんか。

「たいへんだあ。敵はロープを、きろうとしている。はやく、はやく、もっとぐんぐん、引きあげてくれっ。」

 ハヤブサ丸では、ロープまきとりのエンジンを、いっそうはやく回転させました。その力で、潜水機がグラッとゆれて、真上にいる魚形潜航艇にぶっつかりそうです。

 技師は、前にあるハンドルを、めちゃくちゃに、まわしました。すると、潜水機の外につき出している鉄の腕が、左右にグッグッと動いて、潜航艇のよこはらを、たたきつけました。艇の背中に、しがみついている鉄の人魚が、ぐっと、こちらに首をのばして、リンのように光る目で、にらみつけました。

 技師は、またハンドルを、ガチガチやります。鉄の腕が怪物の方にのびて、ワニのようなしっぽを、つかみそうになりました。

 潜航艇の鉄の舌と、潜水機の鉄の腕の、おそろしいつかみあいです。機械と機械の、たたかいです。

 海の底の水はうずをまいて、あわだち、さかなどもは逃げまわり、まるい鉄の潜水機は、ブランブランとゆれ動き、潜航艇はロープをはなすまいと、右に左にしっぽをふり、鉄の人魚は、その背中の上で、あばれまわり、命がけのたたかいが、つづけられました。

 しかし、ついに、鉄のハサミの力よりも、ハヤブサ丸のまきあげ機の力が強かったのです。ロープはぐんぐんまきあげられ、潜水機は鉄のハサミをふりはなして、海面へと引きあげられてきました。

 潜水機から出て、ハヤブサ丸の甲板にあがった技師は、ぜんしんびっしょりのあせで、まっかになった顔から、ボトボトと、あせがしたたっていました。かれは、ひとやすみすると、船長や賢吉君のおとうさんなどに、海底のたたかいのもようを、くわしく話してきかせました。

「敵が潜航艇をもっていようとは、思いませんでした。鉄の人魚には、たくさんのなかまがあるのです。これではとても、かないっこありません。こちらは、自由のきかない潜水機しかないのに、敵は海の底を走りまわる、潜航艇をもっているのです。いよいよ爆雷(ばくらい)でもなげこむほかはないですね。」

 もう海上自衛隊のおうえんをたのむしかありません。船長は大阪の支社へ無電をうって、ことのしだいをしらせました。するとそれにこたえて、支社から、みんなをびっくりさせるような無電が返ってきたのです。

「アケチタンテイ、ユウリョクナブキヲモチ、ケサ、シュッパツシタ、ゴゴ五ジ、ソチラニツクハズ」

 ああ、明智探偵が来るというのです。しかも、有力な武器をもって、やって来るというのです。人びとはこおどりして、思わずばんざいをさけびました。

目次に戻る

目次