海底の魔術師

26話 おばけガニのさいご

2,792字 約6分 2016年12月24日 公開

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 明智は、懐中電灯をふりてらして、そのあとをおいました。が、二十面相の足は、ひじょうにはやく、むこうの岩かどを、まがって、見えなくなってしまいました。

 明智が、その岩かどまで走っていきますと、岩あなが、ふたつに分かれていました。二十面相は、どちらへ逃げたのか、わかりません。明智がそこで、ちょっとためらっていたので、ふたりのあいだは、ますます、へだたってしまいました。

 しかたがないので、一方の岩あなを、懐中電灯でてらしながらすすんでいきましたが、二十メートルもいくと、そこが、いきどまりになっていました。

 おおいそぎで、ひきかえし、もとの分かれみちに、もどりました。そして、もうひとつの岩あなへ、はいっていきました。しばらくすすみますと、むこうの方に、なにかもやもやと、うごめいているものがあります。

 ひどく大きな、気味のわるいものでした。明智は電灯の光を、その方にさしつけました。すると、もやもやしたものの姿が、はっきり見えてきました。

 それは、人間の二倍もある、巨大なカニだったのです。それが、とび出した二つの目で、こちらをにらみつけ、大きなハサミを、ふりたて、ぶきみな八本の足で、ガサガサと、むこうのほうへ、はっていくのです。

 おばけガニです。明智は、じぶんの目では見ていないのですが、いつか、ハヤブサ丸の金塊ひきあげのロープを切ってしまった、あのおばけガニです。

 ほんとうに、そんな大きなカニが、いるわけはありません。鉄板でつくったカニです。そして、その中に二十面相がかくれているのでしょう。

 明智が、その方へ近づくと、おばけガニは、サッとにげ出し、こちらが立ちどまると、カニも、とまって、とび出した目玉を、クルクルまわし、巨大なハサミをふりたてて、「ここまでおいて。」というような、かっこうをします。

 おばけガニは、八本の足で、よこばいをするのですから、とても、にげあしがはやくて、さすがの明智にも、なかなかつかまりません。

 ほら穴は、のぼり坂になり、だんだん、それが、きゅうになってきました。明智は、大ガニを、どこまでも追っていきます。

 こちらがパッと、とびつくと、カニのほうは、ガサッとにげる。そのはやいこと、どうしても、つかまりません。

 ふと、きがつくと、むこうのほうが、ボーッと、明るくなってきました。おやっ、へんだなと思って、よく見ますと、このほら穴には出口があって、そこから、外の光がさしこんでいるのでした。ずいぶん、坂道をのぼったのですから、その出口は、よほど、高いところにひらいているものでしょう。

 おばけガニは、おそろしい、はやさで、その出口にむかって、つきすすんでいきました。そこには、ちょうどトンネルの出口のように、まるい穴がひらいていて、まぶしいほどの明かるさです。

 巨大なカニの、みにくい姿が、その出口に、まっ黒なかげになって、立ちふさがったかとおもうと、穴の外へ、サッと、消えてしまいました。

 明智は、おどろいて、その穴にかけより、外をのぞいたのですが、ひと目みると、クラクラッと目まいがして、おもわず、首をひっこめました。

 その出口は、たかいたかい断崖の上にひらいていたのです。きりたったような岩が、はるか下の方までつづいて、そこに、あわだつ海がありました。海面から何十メートルという高さです。

 そっと、首を出して見ますと、おばけガニは、そのまっすぐの岩はだに、八本の足でつかまって、下へ下へと、おりていきます。ほんとうのカニではありませんから、そんなにうまく、岩がつかめるものではありません。いまにも、すべりおちそうで、見ているだけでも、おしりのへんが、くすぐったくなるようです。

「あっ!」

 明智は、おもわず、声をたてました。おばけガニが、ズルズルと、すべったのです。一度すべりだせば、とても、とまるものではありません。八本の足が、岩はだから、はなれてしまって、大ガニは、サーッと、下へ落ちていきました。そして見る見る、かたちが小さくなり、あわだつ海の中へ消えてしまいました。

 海に落ちても、大ガニのなかの二十面相は、死ぬようなことはなかったでしょう。いつかもあの大ガニは、海の底を、へいきで歩いていたのです。きっと、カニの中にも、酸素のボンベがついていて、二十面相は、それでいきをして、海の底を、はいまわることができるのでしょう。

 かれは、そうして、どこかへ、逃げてしまうのではないでしょうか。しかし、用心ぶかい明智探偵は、こういう場合も、ちゃんと、考えにいれていました。

 さっき、入口の岩を動かして、この岩あなにはいったとき、大いそぎで、手帳の紙をやぶって、鉛筆でなにか書いて、それを岩のすきまから、外へ落としておいたのです。

 首領を追っかけてきた八人の勇士や、小林少年が、それを見つけたに、ちがいありません。そして、そこに書いてある、さしずに、したがって、八人のはだかの勇士は、水中メガネと、ボンベと、水かきをつけて、海底の洞窟の外へ泳ぎだし、そこに待っていた五人の勇士と、いっしょになって、敵が海底に、姿をあらわすのを待ちかまえていることでしょう。

 それは、明智が考えたとおりにはこびました。十三人のはだかの勇士は、洞窟の入口のあたりを、かっぱつに泳ぎまわっていたのです。

 そこへ、海の上のほうから、大きなものが、はげしいいきおいで落ちてきて、スーッと海底に沈んできました。見おぼえのある、おばけガニです。

 十三人の勇士は、それを見ると八方から泳ぎよって、おばけガニに、くみついていきました。

 うす暗い海底の、大格闘です。大ガニは巨大なハサミをふりたて、八本の足を、めちゃくちゃに動かして勇士たちをふりほどこうとしましたが、一ぴきと十三人では、いくらおばけガニでも、かなうはずがありません。長い時間の、おそろしいたたかいののち、おばけガニは、とうとうグッタリとなってしまいました。

 十三びきのアリがコオロギの死がいを、はこぶようなぐあいに、勇士たちはてんでに、おばけガニの足を、ひっぱって、海面に浮きあがってきました。

 すると、そこに、みかたの潜航艇が、ハッチのふたをひらいて、まちかまえていたのです。十三人の勇士は、潜航艇にのぼりつき、おばけガニをかついで、ハッチの中へ落としこみました。

 それから一時間ほどのち、ハヤブサ丸の甲板には、明智探偵と小林少年と十三人の勇士が、もどっていました。そして、甲板の床には、おばけガニのからが、なげだされ、そのそばに、怪人二十面相が、息もたえだえに、よこたわっていました。

 そこには宮田さんや賢吉少年の顔も見えました。それをとりまく、おおぜいの船員は、両手を高くあげて、ばんざいを、さけんでいました。

 そののち、大洋丸の金塊が、のこらず、宮田さんの手にはいったことは、もうすまでもありません。

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