海底の魔術師

25話 巨人と怪人

3,771字 約8分 2016年12月24日 公開

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「この穴は、おくが深いし、いくつも枝道がある。もうだいじょうぶだ。けっして、見つかる心配はない。」

 ふくめんの首領は、岩あなを、おくのほうへ、歩きながら、じしんありげに、いうのでした。

「だが、ふしぎですね。陸のほうの出口からは、おまわりが、はいってくるし、鉄の人魚の中には、敵のやつらがはいっているし、魚形潜航艇は、いつのまにか機械がこわれているし、いったいどうしたというのでしょうね。」

 うしろから、首領のあとを追いながら、ジャックが声をかけました。

「うん、どうも、みんな、明智小五郎のしわざらしい。あいつが、どうかして、この洞窟を見つけたのだ。そして、いろんなことを、たくらんだのにちがいない。それにしても、わけがわからないのは、賢吉のやつだ。あのおとなしい子どもが、いつのまに、あれほど、すばしっこくなったのか、じつに、ふしぎだ。」

 岩あなのてんじょうが、グッと、ひくくなってきたので、首領は、背をかがめて歩きながら、うしろのジャックに話しかけます。すると、ジャックは、なにがおかしいのか、クスクス笑って、

「あんたは、まだ、そのわけが、わからないのですかい?」

 と、みょうなことを、いいました。首領はその声を聞くと、びっくりしたように立ちどまって、ジャックの声のするほうを、ふりむきました。

「なんだって? それじゃ、おまえには、わかっているのか。」

「わかってますよ。あの子どもは賢吉じゃないのです。」

「えっ、賢吉じゃない。それじゃ、あれは何者だっ。そして、賢吉はどこへ行ったのだ。」

「賢吉は、おきのハヤブサ丸へ帰りましたよ。」

「どうして、帰ったのだ、まさか、泳いでいったわけじゃなかろう。」

「小船にのって行きました。」

「その小船はどこにあったのだ。そして、だれが、こいだのだ。」

「明智小五郎が、こぎました。船は漁師から、かりたのですよ。明智と賢吉は、親子の漁師のようなふうをして、われわれの目をくらましたのです。」

 それをきくと、首領は、暗やみのなかで、グッとジャックのうでをつかみました。

「きさま、それを知っていて、なぜ、いままで、だまっていたのだ。なぜ、おれに、知らせなかったのだっ。」

「これには、わけがあるのです。あとで説明します。それより、ここはどうも、きゅうくつですね。もっと広いところへ出ましょう。」

「うん、すこしおくへ行けば、また広くなる。こっちへ、くるがいい。」

 首領はそういって、さきにたって、からだをまげながら前にすすみます。十メートルも行くと、広い洞窟に出ました。

「さあ、ここなら、いいだろう。で、賢吉がハヤブサ丸へ逃げたとすると、さっき、おれが追っかけた子どもは、いったい何者だ?」

「明智小五郎の少年助手の小林です。」

「えっ、あれが小林だって?」

「そうですよ。賢吉では、とても、あんなに、すばしっこく働けませんからね。つまり、こういうわけです。明智小五郎は、小林と、マネキンの首と、ワラたばを持って、洞窟にしのびこんだのです。そして、ワラたばに賢吉の服をきせ、人形の首をすげて、ろうやのすみにすわらせておき、賢吉には漁師の子どもの着物を着せて、ハヤブサ丸へつれて帰った。そのあとで、小林が洞窟の中を走りまわって、賢吉がふたりになったように、見せかけたというわけです。」

「だが、待てよ。いったい明智は、どうして、ろうやの戸をひらいたんだ。こわれていないのを見るとかぎでひらいたとしか考えられないが。そのかぎはおまえのほかには持っていないはずだ。おまえ、まさか、明智にかぎを、かしたわけじゃあるまいな。」

「そうですよ。かしたおぼえはありませんよ。」

「それじゃ、明智はどうして、ろうやの戸をひらいたんだ。」

「首領、なぞですよ。ちょっと、おもしろいなぞですよ、とけませんかね。」

 このバカにしたようなことばに、首領はおこり出しました。

「こらっ、ジャック、きさまは、おれをなぶる気か。なぞなぞあそびをやってる場合じゃないぞ。きさまは、なにかまだ、おれに、かくしているな。」

 ジャックは、へいきで、しゃべりつづけます。

「つまり、こういうなぞですよ。かぎは一つしかない。そのかぎは、このジャックが持っていた。ところが、ろうやの戸をひらいたのは明智小五郎だった。この算数のこたえは、どういうことになるのでしょうね。」

 暗やみのなかで、首領はだまりこんでいました。ギョッとして、ことばも出ないのです。やがて、首領のふるえ声が聞こえてきました。

「それじゃあ、きさまは……。」

「ハハハ……、わかったようだね。そのこたえは、ジャックと明智とが、おなじ人間だったというのさ。おなじ人間だから、かぎをかりなくても、よかったのさ。」

 パッと洞窟の中が、明るくなりました。ジャックが、懐中電灯をつけて、じぶんの顔をてらしたのです。そのまるい光のなかに、ジャックではなくて、あのモジャモジャ頭の明智小五郎の顔が、にこにこ笑っていたではありませんか。

 やみの中でカツラをとり、つけまゆげをはがし、顔のけしょうをふきとって、もとの明智に、もどっていたのです。

「きさま、やっぱり、明智だったなっ。」

 懐中電灯の光が、首領のほうへ向けられました。黒ふくめんの怪人は、両手をひろげ、いまにも明智につかみかかろうとする、おそろしい姿をしていました。

「やっとわかったね。きみにしては、ずいぶん、気づくのが、おそかったじゃないか。だが、まだなぞがのこっている。それじゃあ、ほんもののジャックはどこへ行ったのか。いつ、ジャックとぼくとが、いれかわったのか。きみはそれを知りたいだろう。

 ぼくは、この洞窟には、きっと、陸上へのぬけ道があるとおもった。それで土地の漁師に変装して、海岸のがけの上をさがしていると、あの林のなかのぬけあなから、ジャックがはいだしてきた。

 ぼくはジャックのあとをつけていって、ふいに、うしろから、おそいかかって、しばりあげてしまった。そして、むこうの村の警察へ、つれていったのだ。そのときから、警察とは、ちゃんと、うちあわせがしてあったのだよ。

 ぼくは一度ハヤブサ丸に帰って、十三人のはだかの勇士を、海底の洞窟の入口から、しのびこませた。鉄の人魚の中にはいっていたきみの部下を、やっつけたのは、その勇士たちだ。

 それから、ぼくはジャックに変装し、小林をつれて、陸のほうから洞窟にはいり、賢吉君をたすけ出して船に乗せ、ハヤブサ丸に、おくりとどけた。そしてまた、ここへ帰ってきた。ジャックの姿がしばらく見えなかったのは、そのためだよ。

 ハハハヽヽヽ、気のどくだが、鉄の人魚怪物団もこれで全滅だね。」

 懐中電灯のまるい光は、さっきから、ずっと、ふくめんの首領をてらしていました。かれは、まるで黒い石にでもなったように、身動きもしないで、だまりこんでいるのです。明智は、なお、ことばをつづけました。

「きみは鉄の人魚を発明して、世間をあっといわせようとした。うすい鉄のよろいのなかに、酸素のボンベをとりつけて、中にはいった人間が、水のそこでも、へいきでいられるようにした。

 そういうおそろしいやつが、海の中から、ヌーッとあらわれてきたので、それを見た人は、ほんとうの怪物だとおもった。新聞でも、さわぎたてた。

 きみはどうかして、大洋丸の金塊の秘密を、かぎ出して、船長の遺言書を、ぬすもうとしたが、失敗した。そして、賢吉君のおとうさんの宮田さんが、金塊ひきあげをやることになり、ハヤブサ丸が、このおきへ、やってきた。

 きみは、それを知ると、この洞窟に、ねじろをかまえて、金塊をよこどりしようとした。そこで、海底のたたかいがはじまったのだ。それから、いろいろ、きみょうなことがおこった。ぼくたちは、この洞窟の秘密を知らなかったので、ひじょうにふしぎな気がした。

 だが、とうとう、ぼくがこの洞窟を見つけた。そして、ジャックにばけて、ここへはいって、さぐってみると、きみのたくらみや、鉄の人魚の秘密が、すっかりわかってしまった。

 そして、ぼくが勝ったというわけだよ。ところで、いよいよ、きみのそのふくめんを、ぬいでもらおうか。ふくめんの下に、ほんとうのきみの顔が、あるかどうかわからないがね。」

 そういったかとおもうと、明智はサッと首領にとびかかって、黒ビロードのふくめんを、引きちぎるように、はぎとってしまいました。

「二十面相だ! やっぱりきみだったねえ。」

 懐中電灯の光の中に、あらわれたのは、怪人二十面相、あるいは怪人四十面相の、見おぼえのある顔のひとつでした。それが、ほんとうの顔かどうかは、わかりませんが、まえの事件のとき、一度見たことのある顔でした。

 そういわれて、二十面相は、いちじはギョッとしたようですが、すぐ、気をとりなおして、ふてぶてしく笑いました。

「ウフフフ……、明智先生、しばらくだったなあ。で、きみはこれから、どうするつもりだね。」

「きまっているじゃないか。きみを警察にひきわたすのさ。」

「ウフフフ……、いい気なもんだねえ。おれが、おとなしく、きみにつかまるとでも思っているのかい。」

「こうするのさ!」

 明智がパッと、二十面相に、くみつこうとすると、あいては、スルリと、その手の下をくぐって、いきなり洞窟のおくの方へ逃げ出しました。

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