小桜姫物語 03 小桜姫物語

3話 解説

1,709字 約3分 2012年10月9日 公開

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――本書を(ひもと)かるる人達の為に――

淺野和三郎

 本篇(ほんぺん)集成(しゅうせい)したるものは(わたくし)でありますが、私自身(わたくしじしん)をその著者(ちょしゃ)というのは(あた)らない。(わたくし)はただ入神中(にゅうしんちゅう)のT(じょ)(くち)から(はっ)せらるる言葉(ことば)(はた)筆録(ひつろく)し、そして(あと)整理(せいり)したというに()ぎません。

 それなら本篇(ほんぺん)(むし)ろT(じょ)創作(そうさく)かというに、これも(また)事実(じじつ)()てはまっていない。入神中(にゅうしんちゅう)のT(じょ)意識(いしき)(おく)(ほう)(かす)かに(のこ)ってはいるが、それは全然(ぜんぜん)受身(うけみ)状態(じょうたい)()かれ、そして彼女(かのじょ)とは全然(ぜんぜん)別個(べっこ)存在(そんざい)――小櫻姫(こざくらひめ)名告(なの)()人格(じんかく)彼女(かのじょ)体躯(たいく)司配(しはい)して、任意(にんい)(くち)(うご)かし、(また)任意(にんい)(もの)()せるのであります。(したが)ってこの物語(ものがたり)(だい)一の責任者(せきにんしゃ)はむしろ(みぎ)小櫻姫(こざくらひめ)かも()れないのであります。

 つまるところ、本書(ほんしょ)小櫻姫(こざくらひめ)通信者(つうしんしゃ)、T(じょ)受信者(じゅしんしゃ)、そして(わたくし)筆録者(ひつろくしゃ)総計(そうけい)(にん)がかりで出来(でき)(あが)った、一(しゅ)特異(とくい)作品(さくひん)所謂(いわゆる)霊界(れいかい)通信(つうしん)なのであります。現在(げんざい)欧米(おうべい)出版界(しゅっぱんかい)には、()()った作品(さくひん)無数(むすう)(あら)われて()りますが、本邦(ほんぽう)では、翻訳書(ほんやくしょ)以外(いがい)にはあまり類例(るいれい)がありません。

 T(じょ)()うした能力(のうりょく)(はじ)めて(おこ)ったのは、(じつ)大正(たいしょう)(ねん)(はる)(こと)で、(かぞ)えて()ればモー二十(ねん)(むかし)になります。最初(さいしょ)彼女(かのじょ)(おこ)った現象(げんしょう)(しゅ)として霊視(れいし)で、それは(ほと)んど申分(もうしぶん)なきまでに的確(てきかく)明瞭(めいりょう)、よく顕幽(けんゆう)突破(とっぱ)し、(また)遠近(えんきん)突破(とっぱ)しました。()えて昭和(しょうわ)(ねん)(はる)(いた)り、彼女(かのじょ)()(ひと)つの動機(どうき)から霊視(れいし)(ほか)(さら)霊言(れいげん)現象(げんしょう)(おこ)すことになり、本人(ほんにん)とは(ちが)った()人格(じんかく)がその口頭機関(こうとうきかん)占領(せんりょう)して自由自在(じゆうじざい)言語(げんご)(はっ)するようになりました。『これで(ようや)くトーキーができ()がった……』私達(わたくしたち)はそんな(こと)()って(よろこ)んだものであります。『小櫻姫(こざくらひめ)通信(つうしん)』はそれから以後(いご)産物(さんぶつ)であります。

 それにしても(みぎ)所謂(いわゆる)小櫻姫(こざくらひめ)』とは何人(なんびと)か? 本文(ほんぶん)をお()みになれば(わか)(とほ)り、この女性(じょせい)こそは相州(そうしゅう)三浦(みうら)新井城主(あらいじょうしゅ)嫡男(ちゃくなん)荒次郎(あらじろう)義光(よしみつ)奥方(おくがた)として相当(そうとう)()()られている(ひと)なのであります。その(ころ)三浦(みうら)(ぞく)小田原(おだわら)北條氏(ほうじょうし)確執(かくしつ)をつづけていましたが、武運(ぶうん)(つたな)く、籠城(ろうじょう)(ねん)(のち)荒次郎(あらじろう)をはじめ一(ぞく)(ほと)んど全部(ぜんぶ)(しろ)(まくら)打死(うちじに)()げたことはあまりにも名高(なだか)史的事蹟(してきじせき)であります。その(さい)小櫻姫(こざくらひめ)がいかなる行動(こうどう)()たかは、歴史(れきし)口碑(こうひ)(うえ)ではあまり(あきら)らかでないが、彼女自身(かのじょじしん)通信(つうしん)によれば、落城後(らくじょうご)()もなく(やまい)にかかり、油壺(あぶらつぼ)南岸(なんがん)浜磯(はまいそ)仮寓(かぐう)でさびしく帰幽(きゆう)したらしいのであります。それかあらぬか、同地(どうち)神明社内(しんめいしゃない)には(げん)小桜神社(こざくらじんじゃ)通称(つうしょう)若宮様(わかみやさま))という小社(しょうしゃ)(のこ)って()り、今尚(いまな)里人(りじん)尊崇(そんすう)標的(まと)になって()ります。

 (つぎ)当然(とうぜん)問題(もんだい)になるのは小櫻姫(こざくらひめ)とT(じょ)との関係(かんけい)でありますが、小櫻姫(こざくらひめ)()ぐる(ところ)によれば彼女(かのじょ)はT(じょ)守護霊(しゅごれい)()わばその霊的(れいてき)指導者(しどうしゃ)で、両者(りょうしゃ)間柄(あいだがら)()っても()れぬ、(かた)因縁(いんねん)羈絆(きずな)(しば)られているというのであります。それに()きては本邦(ほんぽう)(ならび)欧米(おうべい)()ある霊媒(れいばい)によりて調査(ちょうさ)をすすめた結果(けっか)、ドーも事実(じじつ)として(これ)肯定(こうてい)しなければならないようであります。

 ()面白(おもしろ)いのは、T(じょ)(ちち)が、海軍将校(かいぐんしょうこう)であった()めに、はしなくも彼女(かのじょ)出生地(しゅっしょうち)がその守護霊(しゅごれい)関係(かんけい)(ふか)三浦半島(みうらはんとう)の一(かく)横須賀(よこすか)であったことであります。(さら)彼女(かのじょ)はその生涯(しょうがい)(もっと)重要(じゅうよう)なる時期(じき)、十七(さい)から三十三(さい)までを三浦半島(みうらはんとう)()らし、四百(ねん)(ぜん)彼女(かのじょ)守護霊(しゅごれい)(したし)める山河(さんが)自分(じぶん)(した)しんだのでありました。これは(たん)なる偶然(ぐうぜん)か、それとも幽冥(ゆうめい)世界(せかい)からのとりなしか、(かみ)ならぬ()には容易(ようい)判断(はんだん)()(かぎ)りではありません。

 最後(さいご)に一(ごん)して()きたいのは筆録(ひつろく)責任者(せきにんしゃ)としての(わたくし)態度(たいど)であります。小櫻姫(こざくらひめ)通信(つうしん)昭和(しょうわ)(ねん)(はる)から現在(げんざい)(いた)るまで足掛(あしかけ)(ねん)(また)がりて(あら)われ、その分量(ぶんりょう)相当(そうとう)沢山(たくさん)で、すでに数冊(すうさつ)のノートを(うず)めて()ります。(また)その内容(ないよう)古今(ここん)(わた)り、顕幽(けんゆう)(またが)り、(また)()部分(ぶぶん)は一般的(ぱんてき)(また)()部分(ぶぶん)個人的(こじんてき)()った具合(ぐあい)に、随分(ずいぶん)まちまちに()(みだ)れて()ります。(したが)ってその全部(ぜんぶ)公開(こうかい)することは到底(とうてい)不可能(ふかのう)で、(わたくし)としては、ただその(なか)から、心霊的(しんれいてき)()参考(さんこう)になりそうな個所(かしょ)だけを、()るべく秩序(ちつじょ)()てて(ひろ)()して()たに()ぎません。で、材料(ざいりょう)取捨(しゅしゃ)選択(せんたく)(せめ)当然(とうぜん)(わたくし)引受(ひきう)けなければなりませんが、しかし通信(つうしん)内容(ないよう)全然(ぜんぜん)原文(げんぶん)のままで、私意(しい)(くわ)へて歪曲(わいきょく)せしめたような個所(かしょ)はただの一箇所(かしょ)もありません。その(てん)(とく)御留意(ごりゅうい)(ねが)いたいと(ぞん)じます。

(十一、十、五)

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