小桜姫物語 03 小桜姫物語

4話 一、その生立

2,140字 約4分 2012年10月9日 公開

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 修行(しゅぎょう)未熟(みじゅく)思慮(しりょ)()りない一人(ひとり)(むかし)女性(じょせい)がおこがましくもここにまかり()(まく)でないことはよく(ぞん)じて()りまするが、()うも再々(さいさい)()()しに(あず)かり、是非(ぜひ)くわしい通信(つうしん)をと、つづけざまにお催促(さいそく)()けましては、ツイその熱心(ねっしん)にほだされて、無下(むげ)におことわりもできなくなって(しま)ったのでございます。それに(また)(かみ)さまからも『折角(せっかく)であるから通信(つうしん)したがよい』との思召(おぼしめし)でございますので、今回(こんかい)いよいよ(おも)()ってお言葉(ことば)(したが)うことにいたしました。(わたくし)としてはせいぜい(ふる)記憶(きおく)辿(たど)り、自分(じぶん)()っていること、(また)自分(じぶん)(かん)じたままを、(つく)らず、(かざ)らず、素直(すなお)申述(もうしの)べることにいたします。それがいささかなりとも、現世(げんせ)方々(かたがた)研究(けんきゅう)資料(たし)ともなればと(ねん)じて()ります。何卒(どうぞ)あまり過分(かぶん)期待(のぞみ)をかけず、お心安(こころやす)くおきき()りくださいますように……。

 ただ(わたくし)として、(まえ)(もっ)てここに(ひと)つお(ことわ)りして()きたいことがございます。それは(わたくし)現世生活(げんせせいかつ)模様(もよう)をあまり根掘(ねほ)葉掘(はほ)りお(たず)ねになられぬことでございます。(わたくし)にはそれが(なに)よりつらく、今更(いまさら)(なん)取得(とりえ)もなき、(むかし)身上(みのうえ)などを(つゆ)ほども物語(ものがた)りたくはございませぬ。こちらの世界(せかい)引移(ひきうつ)ってからの(わたくし)どもの(だい)一の修行(しゅぎょう)は、()るべく(はや)(みにく)地上(ちじょう)執着(しゅうちゃく)から(はな)れ、()るべく(すみや)かに(やく)にも()たぬ現世(げんせ)記憶(きおく)から(とお)ざかることでございます。(わたくし)どもはこれでもいろいろと工夫(くふう)結果(けっか)、やっとそれができて(まい)ったのでございます。で、(わたくし)どもに(むか)って身上噺(みのうえばなし)をせいと()ッしゃるのは、()わば(かろ)うじて(なお)りかけた(こころ)古疵(ふるきず)(ふたた)(えぐ)()すような、随分(ずいぶん)(むご)たらしい仕打(しうち)なのでございます。幽明(ゆうめい)交通(こうつう)(こころ)みらるる人達(ひとたち)(つね)にこの(こと)念頭(ねんとう)()いて(いただ)きとう(ぞん)じます。そんな(わけ)で、(わたくし)通信(つうしん)は、(おも)(わたくし)がこちらの世界(せかい)引移(ひきうつ)ってからの経験(けいけん)……つまり幽界(ゆうかい)生活(せいかつ)修行(しゅぎょう)見聞(けんぶん)感想(かんそう)()ったような事柄(ことがら)(ちから)()れて()たいのでございます。(また)それがこの(みち)にたずさわる方々(かたがた)(わたくし)期待(きたい)されるところかと(ぞん)じます。むろん精神(せいしん)統一(とういつ)して凝乎(じっ)(ふか)(かんが)()めば、どんな(むかし)事柄(ことがら)でもはっきり(おも)()すことができないではありませぬ。しかもその当時(とうじ)光景(こうけい)までがそっくりそのまま形態(かたち)(つく)ってありありと()(まえ)(うか)()てまいります。つまり(わたくし)どもの境涯(きょうがい)には(ほと)んど過去(かこ)現在(げんざい)未来(みらい)差別(さべつ)はないのでございまして。……でも無理(むり)にそんな真似(まね)をして、足利時代(あしかがじだい)絵巻物(えまきもの)をくりひろげてお()にかけて()たところで、(たい)した価値(ねうち)はございますまい。現在(げんざい)(わたくし)としては到底(とうてい)そんな気分(きぶん)にはなりかねるのでございます。

 と(もう)しまして、(わたくし)(いま)いきなり()んでからの物語(ものがたり)(はじ)めたのでは、(なに)やらあまり唐突(とうとつ)……現世(このよ)来世(あのよ)との連絡(つながり)(すこ)しも(わか)らないので、()りつくしまがないように(おも)われる(かた)があろうかと(かん)ぜられますので、(はなは)不本意(ふほんい)ながら、(わたくし)現世(げんせ)経歴(けいれき)のホンの荒筋丈(あらすじだけ)をかいつまんで申上(もうしあ)げることに(いた)しましょう。()りかけた(ふね)とやら、これも現世(げんせ)通信(つうしん)(こころ)みる(もの)(まぬが)(がた)運命(うんめい)――(ごう)かも()れませぬ……。

 (わたくし)は――(じつ)相州(そうしゅう)荒井(あらい)城主(じょうしゅ)三浦道寸(みうらどうすん)(そく)荒次郎(あらじろう)義光(よしみつ)(もう)(もの)(つま)だったものにございます。現世(げんせ)呼名(よびな)小櫻姫(こざくらひめ)――時代(じだい)足利時代(あしかがじだい)末期(まっき)――(いま)から(やく)四百余年(よねん)(むかし)でございます。もちろんこちらの世界(せかい)には昼夜(ちゅうや)区別(くべつ)も、歳月(つきひ)のけじめもありませぬから、(わたくし)はただ(かみ)さまから(うかが)って、()るほどそうかと(おも)(だけ)のことに()ぎませぬ。四百(ねん)といえば現世(げんせ)では相当(そうとう)(なが)星霜(つきひ)でございますが、不思議(ふしぎ)なものでこちらではさほどにも(かん)じませぬ。多分(たぶん)それは凝乎(じっ)精神(こころ)(しず)めて、無我(むが)状態(じょうたい)をつづけて()期間(あいだ)(おお)(せい)でございましょう。

 (わたくし)生家(さと)でございますか――生家(さと)鎌倉(かまくら)にありました。(ちち)()大江廣信(おおえひろのぶ)――代々(だいだい)鎌倉(かまくら)幕府(ばくふ)(つか)へた家柄(いえがら)で、(ちち)矢張(やは)りそこにつとめて()りました。(はは)()袈裟代(けさよ)、これは加納家(かのうけ)から(とつ)いでまいりました。両親(りょうしん)(あいだ)には(おとこ)()はなく、たった一粒種(ひとつぶだね)(おんな)()があったのみで、それが(わたくし)なのでございます。(したが)って(わたくし)小供(こども)(とき)から随分(ずいぶん)大切(たいせつ)(そだ)てられました。(べつ)(うつく)しい(ほど)でもありませぬが、体躯(からだ)()大柄(おおがら)(ほう)で、それに(いた)って健康(たっしゃ)でございましたから、(わたくし)処女時代(むすめじだい)は、(まった)苦労(くろう)()らずの、丁度(ちょうど)(はる)小禽(ことり)そのまま、(たの)しいのんびりした空気(くうき)(ひた)っていたのでございます。(わたくし)(おさな)時分(じぶん)には祖父(ぢぢ)祖母(ばば)もまだ存命(ぞんめい)で、それはそれは()にも()れたいほど(わたくし)寵愛(ちょうあい)してくれました。()日和(ひより)(おり)などには(わたくし)はよく二三の腰元(こしもと)どもに(かしずか)れて、長谷(はせ)大仏(だいぶつ)()(しま)弁天(べんてん)などにお(まい)りしたものでございます。()せてはかえす七()(はま)浪打際(なみうちぎわ)貝拾(かいひろ)いも(わたくし)(なに)より()きな(あそ)びの(ひと)つでございました。その時分(じぶん)鎌倉(かまくら)武家(ぶけ)住居(やしき)()(なら)んだ、物静(ものしず)かな、そして(なに)やら無骨(ぶこつ)市街(まち)で、商家(しょうか)()っても、品物(しなもの)(みな)奥深(おくふか)仕舞(しま)()んでありました。そうそう(わたくし)はツイ近頃(ちかごろ)不図(ふと)した機会(おり)に、こちらの世界(せかい)から一()鎌倉(かまくら)(のぞ)いて()ましたが、赤瓦(あかがわら)青瓦(あほがわら)()いた(ちい)さな家屋(かおく)のぎっしり()()んだ、あのけばけばしさには、つくづく(あき)れて(しま)いました。

『あれが(わたくし)(うま)れた(おな)鎌倉(かまくら)かしら……。』(わたくし)はひとりそうつぶやいたような次第(しだい)で……。

 その(ころ)生活(せいかつ)状態(じょうたい)をもっと(くわ)しく物語(ものがた)れと()っしゃいますか――致方(いたしかた)がございませぬ、お(しゃべ)りの(つい)でに、(すこ)しばかり(おも)()して()ることにいたしましょう。もちろん、順序(じゅんじょ)などは(すこ)しも()って()りませぬから何卒(どうぞ)そのおつもりで……。

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