怪奇四十面相

19話 三つの黄金どくろ

2,383字 約5分 2016年5月13日 公開

読み方を変える
字の大きさ
行の間隔
1行の長さ
書体
配色
組み方

 それから三十分ほどのち、地下室では、三人の骸骨が、テーブルをかこんで、秘密の話をつづけていました。

「わしはどうも、読みかたが、ちがっていたんじゃないかと思いますがね、ひとつみんなが、どくろをテーブルの上にだして、べつの読みかたをしてみようじゃありませんか。」

 金色の骸骨のひとりが、そう言って、そばにまるめてある黒マントの中から、キラキラ光る黄金のかたまりをとりだして、テーブルにのせました。

 それは、実物の半分ぐらいの大きさの、金製のどくろでした。どくろのかざりものというのは、なんだかへんですが、やっぱりかざりものとして、つくったとしか考えられません。ものずきな美術家が、きまぐれにこしらえたものでしょう。ほんものそっくりに、じつによくできているのです。

 あとのふたりの骸骨もそれにならって、同じような黄金どくろをテーブルの上にだしました。ものずきな美術家は、ひとつだけではたりないで、まったく同じ黄金どくろを、三つもつくったのでしょうか。それとも、これには、もっと、ふかいわけがあるのでしょうか。

 骸骨のひとりが、その黄金どくろを、さかさまにして、後頭部の首にちかい部分を上にし、グッと目を近づけて、そこをみつめました。

 その後頭部のすみに、ちょっと見たのではわからないような、小さな小さな字で、三行のひらがなが、ほりつけてあるのです。

「ゆなどき、んがくの、でるろも。これじゃあ、いくら考えてもわからない。それで、わしは、横に読んでみたのですよ。すると、ゆんで、ながる、どくろ、きのも、となる。これでも、やっぱりわからないが、どくろという三字には、意味がある。なんだか見こみがあるように思うのです。あんたがたのふたつのどくろの字も、そういうふうに横に読んで、そして、三つのどくろの字をつなぎあわせたら、なにか意味ができてくるのじゃないかと、気がついたのですよ。ひとつならべてみてください。」

 三つの黄金どくろが、テーブルのまんなかに、後頭部を上にして、あつめられました。

 三人は上半身をまげて、その上におおいかぶさるようにして、黄金の表面のかすかなひらがなを読むのでした。

 三人はしばらくのあいだ、三つのどくろを、いろいろにくみあわせて、読みくらべていましたが、けっきょく、つぎのように、ならべるのが、いちばん意味がありそうだということになりました。

「ね、これで、いくらか、意味のわかるところがある。まず、いちばん右がわから、読んでみると、きのもきどくろじま、となるが、きのもきというのは、わからないけれども、どくろじまは髑髏島(どくろじま)の意味じゃないでしょうかね。」

 ひとりが言いますと、べつの骸骨が、うなずきながら、

「ウンそうだ、そうだ。右から二行めは、どくろんをさぐれよ、となる。どくろにも意味があるし、さぐれよは、さがしてみよというわけでしょうね。だが、そのあいだのんをというのがわからない。」

 すると、いまひとりの骸骨が、三行めを読みました。

「ながるだのおくへと、これはむずかしい。ながるは流るという意味でしょうね。そのつぎのだのはわからないが、おくへとは、奥へと、奥のほうへと、という意味じゃないでしょうかね。」

「さいごの第四行めにも、意味がありますよ。ゆんでとすすむべし。このゆんでとはわからないが、すすむべしは進むべしで、進みなさいというわけでしょう。」

「ウン、だんだん、わかってくるようですね。ひとつ、いま読んだとおり、紙に書いてみましょう。」

 ひとりの骸骨が、それはたぶん、主人の博士なのですが、テーブルの上に紙をひろげて、鉛筆で、つぎのように書きしるしました。

きのもきどくろじま

どくろんをさぐれよ

ながるだのおくへと

ゆんでとすすむべし

 三人は、このふしぎな文句を、なんども、口の中でとなえながら、ながいあいだ考えていましたが、やがて、ひとりが、ポンとひざをたたいて、口をひらきました。

「わかった、三つでなくて、四つなんですよ。われわれは、いままで、この黄金どくろを、三つしかないものと、思いこんでいた。しかし、この文句がうまくつづかないのは、黄金どくろがもう一つあるしょうこです。ごらんなさい。きのもき、どくろん、ながるだ、つづきぐあいがわるいのは、このもき、ろん、るだのところですよ。だから、もとき、ろとん、るとだのあいだに、三字ずつひらがながぬけているとしか考えられない。つまり、われわれの知らない黄金どくろが、もうひとつ、どこかにあるのですよ。」

「ウン、そうだ。そのほかに、考えようがありませんね。」

「だが、その、もうひとつの黄金どくろが、どこにかくれているか、こいつをさがすのは、たいへんなしごとですよ。われわれ三人が、どくろクラブをつくって、こんな骸骨の着物をきて、ここに、あつまるようになるまででも、なみたいていの苦心ではなかったのですからね。わしはもう、ウンザリしましたよ。」

「いや、われわれの大目的を、たっするまでには、まだまだ、いろいろな、苦労をしなければなりません。いまから、よわねを、はいちゃいけませんね……。では、これからは、三人が力をあわせて、そのもうひとつの黄金どくろを、さがすのです。どんなことがあっても、さがしださなければなりません。なにしろ、何百億、何千億ともしれない、大宝庫を発見するためですからね。」

 それから、三人は、しばらくのあいだ、相談をつづけましたが、夜もふけたので、またつぎの金曜日に、あつまることとして、そとから来たふたりの客は、黒マントで身をつつみ、博士邸を立ちさることになりました。

 博士はふたりを、玄関まで見おくっておいて、ふたたび地下室にひきかえし、テーブルのまえに腰かけて、そこにおいたままになっていた、ふしぎな、かな文字をしるした紙を、じっとみつめながら、しきりと考えにふけるのでした。

目次に戻る

目次