雲間寸観

2話 雲間寸觀

2,363字 約5分 2012年4月28日 公開

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三十日正午 大木頭

◎豫算委員總會 二十五日の第一囘總會は同日午前十時半開會首相藏相の挨拶に亞いで、江藤新作氏の軍事費に關する質問あり、寺内陸相之に答へ早速整爾氏の事業繰越に關する質問には、水町大藏次官より説明する所ありて正午散會、何事もなかりし由に候が、二十七日の第二囘總會には不取敢再昨の紙上に電報を以て報じたる如く民黨の重鎭大石正巳氏より噴火山的大質問あり舌端火を吐いて政府に肉薄するの活劇を演じ藏相陸相外相の三相亦熱心なる答辯を試みて正午一先づ休憩したる由に候が大石氏質問の要旨に曰く今囘の財政計畫は反て財政の基礎を不鞏固にする者なり、抑も政府の豫算案には二箇の病根あり此の病根即ち基礎を不確實にするものなり、二箇の病根とは何ぞ一に曰く借金政策二に曰く事業繰延即ち是のみ所謂繰延は既定年限内に於ける繰延に過ぎずして更に年限を延長することなし、又政府當局は外國財界の不況の故を以て公債募集の不能なるを云ふも一億二億の公債は何時にも募集し得らるゝ筈なり或は國内に於ても之を募集し得べし而かも募集し能はざるの事情は内外財界の不況に基くにあらずして財界の不確實なるが故なり、財政の基礎薄弱にして如何でか内外に信用を維持し得べき政府は歳入の目的増加ありと云ふも此の如き不確實なるものを以て到底財政上の信用を得る能はず一時凌ぎの計畫は國家を誤るものなり、政府當局が平和の今日僅かに數千萬圓の公債をも募集し得ざるが如き地位に日本帝國を置きて安心せらるゝは何ぞや、日本の豫算は政治家眼を以て編成せるにあらず又帝國の境遇の如何と事件の緩急とを計りて立てたるものと爲すを得ざるなり抑財政をして最も困難ならしむるものは國防なり、是れ豫算を軍人眼を以て立つるに因る、從て益々經費を軍事に吸收せられ財政は益々困難に陷らざるを得ず。若し外交上より解剖するときは豫算の立て方を明かにするを得べし。首相は日英同盟は益々鞏固なる上日佛日露の協約成りて日本の地位は鞏固になれる旨を演説せられたり。然り日英同盟は益々鞏固にして日露及び日佛協約は愈々日英同盟を鞏固にならしめたり、日佛協約は滿洲北清の方面に於ける危險を免れしめたり。加之英露の協約は殆ど世界の平和を保障せり。然らば日本の東洋に於ける地位が、益々安全鞏固を致せるは何人も疑を容れず斯の如く平和の保障せられ地位の安全なる時に於て財政を整理し民力を休養せずんば單だ何れの日に之を望まん。次に外交の不振に就て質問せん、先づ日清間は如何。ポーツマス條約に伴ふ日清間の交渉は殆んど總て未決の儘に在るにあらずや、清國は可成日本の利益に反する態度を採れるの傾きあり日本は清國に對して一と通りの責任に止まらず指導の重任に膺り清國に向つて大なる恩惠を與へたるにも拘らず清國をして兎角日本の利益に反する態度を採らしむるに至るは外交機關の振はざるに因る、通商貿易に於ても又此の如し移民排斥の如き日本の外交の振はざるが爲めなり、又排斥熱の起れる後に於ても萬事手緩き感あるに非ずや云々と述べ更に交通機關に就て質問せんとしたるに原遞相まだ出席なかりし爲め之れにて一先づ質問を止めたる由に候が、之れに對し松田藏相は斷乎として豫算の編成が軍人眼に出でたりとするは否なりと答へ、寺内陸相は滿洲駐屯軍を二ヶ師團のみに止めたる實例を引きて帝國の軍備が財政を眼中に置かずとの非難は無存なりと論じ、又我國をして今日の状態に至らしめたるは兵力の結果なるが故に軍備が不生産的なりといふ事は出來ぬと怒鳴り、林外相は例の悠揚迫らざる體度にて勢力は之を加ふる方によきも加へらるる方では惡しきものなりとて清國問題に公平穩健なる意見を吐露し、對米問題に關しては、日本人は益々安全なる地位にありと確言したる由に候

◎同上二十八日總會 翌二十八日總會も亦活劇を演出したる由にて島田三郎氏軍備の爲め凡ての事業を犧牲とするも兵器を活用する財政上の基礎ありやと、質問せしに松田藏相は何れの國と雖ども開戰準備金を設くるものならず只萬一の際は國民愛國心に訴ふる外なしと遣込め、早速氏と水町次官との問答中、望月右内氏(政)煩瑣聞くに堪へずと之を攻撃するや、其後席にありし進歩黨の神崎、東尾二氏奮然唸りを發し中にも神崎氏は望月氏と掴み合ひを始めむとするに至り政友會の野田氏が中に飛び込みて怒號慢罵の聲喧しく大立となりしが、幸にして大岡委員長の制止にて鎭靜に歸し次で望月小太郎氏(猶)より日米關係につき説明を求むるため祕密會を要求せしも成立せずして散會したる由に候

◎韓宮の低氣壓 韓國内閣の動搖に關しては一昨日の本欄に多少記載する所ありしが、悲しむべし京城の内外陰時常ならずして一團の低氣壓四大門上を去らず宮内府にては近日女宮を廢し李宮相の歸國を待ちて雅悲四千餘名解散し根本的の肅清を圖ると揚言しつゝありて庶政漸く其緒につくものの如しと雖ども社面には幾多の暗流横溢するものと見え廿八日京城發電は嚴妃の姉聟にあたる閔某が太皇帝及び嚴妃の密旨を受けて大金を携帶し、上海より銃器彈藥を密輸し以て暴徒を幇助せむとせし陰謀發覺し、仁川に於て縛に就ける旨報じ來り候、自ら末路を早むる所以なるを知らざる韓廷の擧措吾人は寧ろ愍情に堪へざるものに候

◎露國議會の解散 凡露國政府は若し國民議會にして海軍再興費を否決するに於ては斷然解散すべしと各議員を威嚇しつゝある由倫敦電報によりて報ぜられ候若し同案を遂行するとせば十ヶ年間に亘り三億一千九百萬磅を要すべく全國の輿論は全たく之に反對しつゝありと申す事に候、現時の世界に於て何處如何なる國の人民も過大なる軍事費の爲めに膏血を絞られざるはなし、こは抑々何事ぞや、心ある者と宣しく一考再考否百考千考すべき所なるべく候。

(明治40・2・1「釧路新聞」)

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