松翠深く蒼浪遥けき逗子より

1話 松翠深く蒼浪遥けき逗子より

310字 約1分 2002年5月20日 公開

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 櫻山(さくらやま)夏鶯(なつうぐひす)()()れつゝ、岩殿寺(いはとのでら)青葉(あをば)目白(めじろ)()く。なつかしや御堂(みだう)松翠(しようすゐ)愈々(いよ/\)(ふか)く、鳴鶴(なきつる)ヶ崎(さき)(なみ)(あを)くして、新宿(しんじゆく)(はま)(うすもの)(ゆき)()く。そよ/\と(かぜ)(わた)(ところ)日盛(ひざか)りも(かはづ)(こゑ)(たか)らかなり。夕涼(ゆふすゞ)みには(あし)(あか)(かに)()で、()(ひか)(たこ)(あらは)る。撫子(なでしこ)はまだ(はや)し。山百合(やまゆり)()()めつ。月見草(つきみさう)(つゆ)ながら(おほ)くは別莊(べつさう)(かこ)はれたり。()(はな)(すくな)けれど、よし蘆垣(あしがき)垣間見(かいまみ)(とが)むるもののなきが(うれ)し。

 田越(たごえ)蘆間(あしま)(ほし)(そら)池田(いけだ)(さと)小雨(こさめ)(ほたる)、いづれも名所(めいしよ)(かぞ)へなん。(さかな)小鰺(こあぢ)(もつと)()し、野郎(やらう)(くち)よりをかしいが、南瓜(かぼちや)(あぢ)拔群(ばつぐん)(なり)近頃(ちかごろ)土地(とち)名物(めいぶつ)浪子饅頭(なみこまんぢう)()ふものあり。此處(こゝ)中學(ちうがく)あたりの若殿輩(わかとのばら)に、をかしき(その)わけ()らせぬが()かるべし、と(おも)ふこそ(なほ)をかしけれ。

大正四年七月

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