14話 日本中の宝石
読み方を変える
それからしばらくすると、玉村さんと、あき子夫人と、光子さんと、銀一君の四人は、玉村さんの書斎にあつまっていました。
その部屋の一方の壁に、大きな金庫がはめこんであります。にせの玉村さんは、ダイヤルの暗号を、ちゃんと知っていて、それをまわして、金庫をひらきました。
金庫の中には、たくさんのひきだしがついていて、それに宝石がいっぱいはいっているのです。
銀座の店においてあるのは、ありふれた宝石ばかりで、ほんとうにたいせつな宝石は、みんなこの金庫にしまってあるのです。店にある宝石でも、ひとつ百万円以上のものは、まい日かばんにいれてもちかえり、この金庫にしまっておくことになっていました。
「このひきだしには、何百という宝石がはいっている。十億円をこすわしの財産だ。どこへもっていこうと、わしの自由な財産だ。わかったかね。
この宝石のために、われわれは、こうしてはたらいているのだ。いや、ここにある宝石だけではない。宝石王玉村銀之助の信用を利用して、日本全国のめぼしい宝石を、すっかりあつめてしまおうというのが、ニコラ博士の計画だ。」
「どうして、あつめるのでしょうか。」
にせのあき子夫人が、ききかえしました。
「それには、こういう方法がある。まず、わしが主催者になって、全国の宝石商や、有名な宝石をもっているお金持ちによびかけて、宝石展覧会をひらくのだ。そして、日本のめぼしい宝石を、一ヵ所にあつめてしまうのだ。
展覧会をひらいているあいだに、出品されたぜんぶの宝石のにせものをつくるのだ。人間のにせものさえこしらえるニコラ博士のことだ、宝石のにせものぐらい、朝めし前だよ。そのにせものと、ほんものと、すりかえてしまう。わしは展覧会の主催者だから、すりかえるのは、わけもないことだからね。」
「ふーん、うまい考えですね。そうして展覧会の宝石をすりかえたあとは、わたしたちは、この世から消えうせてしまうのでしょうね。」
「そうだよ。そこで、われわれにせものの役目は、おわるのだ。」
にせの玉村さんは、金庫のとびらをしめると、ベルをおして、女中さんをよび、ばんごはんの用意をするように、いいつけました。玉村家にはコックのおばさんがいて、毎日おいしいごちそうをつくっているのです。
しばらくすると、四人は食堂のテーブルにむかって、食事をしていました。おいしい洋食のおさらが、つぎつぎとはこばれます。
玉村家の書生さんも、女中さんも、コックのおばさんも、玉村さんたち四人が、ぜんぶにせものとは、すこしも気がつきません。いつものご主人たちと信じきって、いいつけに、そむかないようにしていました。
「もうこれで、すっかり安心ですね。そのせいか、こんやのごちそうは、たいへん、おいしゅうございますわ。」
あき子夫人が、フォークで肉を口にはこびながら、たのしそうにいいました。
「うん、そうだね。わしも、このブドウ酒が、いつもよりもうまいようだ。それにしても宝石展覧会を、はやくひらきたいものだね。」
「ぼくたちも、その展覧会が、はやく見たいよ。ねえ、ねえさん。」
「ええ、日本中の有名な宝石が、ぜんぶあつまったら、どんなにきれいでしょうね。」
そのとき、女中さんがはいってきて、明智探偵の助手の小林少年が、たずねてきたことを知らせました。
「ああ、それはちょうどいい。ここにおとおししなさい。」
小林少年のにこにこ顔があらわれ、テーブルにすわりますと、そこに新しい料理のさらがはこばれ、小林君も食事のなかまにくわわりました。
「玉村さん、銀一君の友だちの松井君が、へんなことをいってきたので、ぼくも一度は光子さんや銀一君をうたがいましたが、みんな松井君のひとりがてんだとわかりました。同じ顔の人間が、この世にふたりいるなんて考えられないことですからね。」
「そうですよ、小林さん。そんなばかなこと、あるはずがないやね。おかげで、わしもすっかり安心しましたよ。」
玉村さんはそういって、さっきの宝石展覧会の話をしました。
「そりゃすばらしいですね。日本中の名だかい宝石を、ぜんぶあつめる展覧会なんて、これまで一度もなかったでしょう。ぼくも見にいきますよ。どんなに美しいことでしょうね。」
もちろん、この小林少年もにせものです。五人のにせものが、同じテーブルをかこんで、さもほんものらしく、たのしげに語りあっているのです。