4話 ニコラ博士
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十秒ほどにらみあったあとで、窓のむこうの顔は、パッとガラスをはなれて、庭の立ち木のあいだに、にげこんでしまいました。
銀一君は、少年探偵団員だけあって、こういうときには勇かんです。うちの人に知らせるひまもないので、そのまま、窓からとびだすと、くつもはかないで、自分とそっくりの少年のあとを、おいました。
あいては、うらのコンクリートべいを、よじのぼって、外の道路へ、とびおりたようです。銀一君も、そのへいをのりこえました。
見ると、二十メートルほどさきを、あいつが大いそぎで、あるいていきます。うしろ姿は、銀一君と、まったくおなじ服装です。
こちらは、しずかに、へいからすべりおちて、追跡をはじめました。ほとんどくらくなっているので、あいてにさとられる心配はありません。
それにしても、なんというふしぎな追跡でしょう。まったくおなじ顔の、おなじ服装の、ふたりの少年が、二―三十メートルをへだてて、トット、トットと、いそぎ足に、歩いているのです。
さびしい町から、さびしい町と、あるいているうちに、いつのまにか、あの八幡さまの石がきのところにきていました。
あいての少年は、石がきをとおりすぎて、八幡さまの林の中へはいっていきます。ゆうべでお祭りはすんだので、林の中はまっくらで、人っ子ひとりいません。
銀一君も、すこしおくれて、八幡さまの中へ、はいっていきましたが、くらいので、なにがなんだかわかりません。あの少年はどこへいったのか、いくらさがしても姿が見えないのです。
むこうにボーッとひかったものがあります。八幡さまの社殿の前に、うすぐらい常夜灯が立っているのです。
その社殿のえんがわのようなところに、みょうな人間が、こしかけていました。はでなしまの背広をきた老人です。
老人は白いかみの毛をモジャモジャにして、長い白ひげを胸の前にたらしています。大きなめがねをかけていて、それが常夜灯の光を反射して、キラキラひかっているのです。
こんなまっくらな中で、社殿にこしかけているなんて、あやしい老人です。銀一君は、気味がわるくなって、にげだそうかと思いましたが、にげるのもざんねんです。勇気をだして、ぎゃくに、こちらからちかづいていきました。
「おじいさん、ぼくとおんなじ服をきた、おんなじ顔の子どもが、ここをとおらなかったですか。」
おもいきって、はなしかけてみました。すると、老人は、こしかけたまま、身動きもしないで、にやりと笑いました。
「おお、かんしん、かんしん、きみはなかなか勇気がある。きみとおんなじ顔をした子ども、あれはきみの分身じゃよ。」
地の底から、ひびいてくるような、いんきな声です。
「分身って、なんですか?」
「きみが、ふたりになったのじゃ。ひとりの子どもが、ふたりにわかれたんじゃよ。」
「どうして、そんなことができるのですか。」
「わしがそうしたのじゃよ。ハハハハハハ。」
老人はぶきみに笑いました。やっぱり、あやしいやつです。
「おじいさんはだれですか。」
「わしはニコラ博士というものじゃ。」
「ニコラ博士? じゃあ、日本人ではないのですか。」
「わしは十九世紀のなかごろに、ドイツで生まれた。だが、わしはドイツ人ではない。世界人じゃ。イギリスにも、フランスにも、ロシアにも、中国にも、アメリカにもいたことがある。そして、いたるところで、ふしぎをあらわして歩くのじゃ。わしは大魔術師じゃ、スーパーマンじゃ。わしにできないことはなにもない。神通力をもっているのじゃ。わしひとりの力で、この世界を、まったくちがったものにすることができる。そういう神通力をな。ウフフフフフ。」
老人はそういって、またしても、地の底からのような、いんきな声で、笑うのでした。