塔上の奇術師

10話 変装から変装へ

1,406字 約3分 2017年2月15日 公開

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 こうもり男のとびおりた、塀の外の道路は、一方は淡谷邸のコンクリート塀、一方は、草のしげった原っぱになっていました。その原っぱには、ところどころに立ち木があり、ひくい木のしげみなどもあるのです。

 こうもり男は、その一つのしげみの中へ、サッとすがたをかくしましたが、ほんの一分もたったかたたないうちに、そのしげみから、ひとりのじいさんが、ヌウッとあらわれました。

 きたない鳥打ち帽をかぶり、ぼろぼろのオーバーをきて、首にえりまきをまきつけた、六十ちかいじいさんです。首からひもで手さげ電灯をむねの前にさげ、拍子木(ひょうしぎ)のひもも首にかけています。町内の夜まわりのじいさんらしく見えます。

 これは、いうまでもなく、四十面相の変装でした。そのしげみの中に、まえもって、変装の服などがかくしてあったのでしょう。なにしろ変装の名人のことですから、またたくまに、こうもり男から、火の番のじいさんに化けてしまったのです。

 その時、淡谷邸の表門のほうから、三人の刑事がかけだしてきて、そのへんを、キョロキョロとさがしまわっています。

 じいさんに化けた四十面相は、原っぱのはずれまでいって、そこから道路に出ると、刑事たちのほうへ近づいていきました。

「火のようじん……。」

 ちょんちょんと、拍子木をうって、のろのろと歩いていきます。

「おい、じいさん。いまここへ、黒いマントを着たやつがとびおりたんだが、見なかったかね。」

 刑事のひとりが、あわただしく、たずねました。

「エッ、黒いマントですって?」

 じいさんは、立ちどまって、びっくりしたように聞きかえしました。声まで、しわがれたじいさんの声になっています。

「うん。四十面相という大泥坊だ。この塀の外へとびおりたんだよ。黒いシャツの上に黒マントをきた、こうもりみたいなやつだ。見なかったかね。」

「アッ、それじゃあ、いまのやつだ。そうですよ、マントをひらひらさせて走っていきましたよ。あっちです。あっちのほうへ、飛ぶように走っていきました。」

 夜まわりのじいさんは、はるかうしろのほうを指さして、まことしやかに答えるのです。

「よしっ、あっちだなッ。すぐ追っかけよう。」

 刑事たちは、そのまま、じいさんの指さしたほうへ、ばたばたとかけさってしまいました。

 それを見おくって、じいさんは、にやりと笑いました。手ばやい変装が、みごとに(こう)をそうしたのです。

 しかし、まだゆだんはできません。刑事たちが、とちゅうで気づいて、ひきかえしてきたらたいへんです。

 じいさんは、あたりを見まわしてから、また、原っぱへかけこんで、さっきのしげみの中へ身をかくしました。

 そこには、ぬぎすてたマントや、角のはえたかつらや、もう一つ、べつの変装服などといっしょに、ぬすみだした宝石ばこのふろしきづつみも、かくしてありました。

 四十面相は、また、手ばやくじいさんの変装をといて、べつの服を着こみ、そこにあった、絵のぐ箱をひらいて、顔をつくりなおしました。

 こんど、しげみから立ちあらわれたのは、りっぱな背広に、オーバーを着て、ソフトをかぶった紳士でした。しゃれためがねをかけ、口ひげをはやしています。

 紳士は、むらさき色のふろしきづつみをこわきにかかえて、道路に出ると、刑事たちが走っていったのとは反対のほうへいそぎ、にぎやかな大通りにくると、タクシーをよんで、そのまま、どこともしれず、ゆくえをくらましてしまいました。

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