塔上の奇術師

9話 屋上の怪人

1,941字 約4分 2017年2月15日 公開

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 にせの一郎青年が、逃げだしたのを見ると、小林少年は、パッと窓ぎわへかけつけました。そしてポケットから、探偵の七つ道具の一つである、よびこの笛をとりだすと、ぴりぴりぴり……と、ふきならしました。庭にいる刑事たちに、四十面相が逃げたことを知らせるためです。

 まっ暗なひろい庭を、あちこちと回り歩いて警戒にあたっていた三人の刑事は、この、よびこの音をきくと、みんな、窓ぎわへ集まってきました。

「四十面相は一郎さんに化けていたんです。宝石ばこをぬすみました。そして、いま、この窓から逃げだしたのです。まだそのへんにいるはずです。つかまえてください。」

 小林少年が叫びますと、刑事たちは顔を見あわせて、

「へんだなあ。ぼくたちは三方からかけつけてきたんだから、ここから逃げたら、だれかにぶっつかっているはずですよ。ところが、ぼくたちは、あやしいやつには、いちども出くわさなかった。すると、どこか、このへんの木のしげみにでも、かくれているのかもしれないね。」

 刑事たちは、いぶかしそうにいって、てんでに懐中電灯をつけると、また三方にわかれて、捜索をはじめるのでした。

 しばらく、しげみの中をさがしまわりましたが、どこにも、にせの一郎青年のすがたはありません。四十面相は、またしても魔法をつかって、消えうせてしまったのでしょうか。

 そのとき、さがしつかれた刑事のひとりが、ふと空を見あげました。

「アッ! あすこだ。あすこにいる。」

 西洋館の二階の屋根のてっぺんに、恐ろしいすがたが立ちはだかっていました。外灯のぼんやりした光をうけて、夜空の中に、あのこうもり男が、つっ立っていたではありませんか。

 にせの一郎青年は、いつのまにか、こうもり男にばけて、大屋根にのぼっていたのです。

 どうして、あんな高いところへのぼることができたのでしょう。あとでわかったのですが、四十面相は、あらかじめ、大屋根のてっぺんから、窓の外へ、黒いつなをたらしておいたのです。

 そして、窓をとびだすと、そのつなにすがって、さるのように、するすると、大屋根までのぼりついたのです。

「アッ、あいつ、宝石ばこをかかえているぞッ。」

 あの、むらさきのふろしきにつつんだ四角なはこを、だいじそうにこわきにかかえているのです。

「け、け、け、け……。」

 空から、きみのわるい怪人の笑い声がひびいてきました。庭から見あげている刑事たちをあざ笑っているのです。

 刑事たちは、きゅうに考えをきめることができませんでした。四十面相をとらえるためには、まず、はしごで一階の屋根にのぼり、そこからまたはしごをかけて、二階の屋根にのぼるしかないのですが、あいては曲芸師のようなやつです。そんなことをしているうちに、といでもつたって下へおりられたら、なんにもなりません。それに、といは洋館のむこうがわにもあるのですから、三人の刑事では、人数がたりないのです。

「おい、電話をかけろ。パトカーを呼ぶんだ。ぼくら三人では、どうにもできない。」

 そして、ひとりの刑事が、電話をかけるために、洋館のげんかんへかけだそうとした時です。

 空を見あげていたべつの刑事が、

「アッ。」と、声をたてました。

 大屋根の上から、まっ黒なものが、サアッととびおりてきたのです。

 巨大なこうもりが、マントの羽根をいっぱいにひろげて、刑事たちの頭の上へ、とびかかってきたのです。

 三人の刑事は、ギョッとして、おもわず地面にうずくまりました。

 すると、刑事たちのすぐそばまでとびおりてきた大こうもりが、そのまま、西洋館の反対の空中へ、スウッとまいあがっていったではありませんか。

 ああ、わかった。ぶらんこです。四十面相のこうもり男は、大屋根から黒いつなにすがって、ぶらんこをやったのです。

 淡谷さんの庭には、近所のめじるしになるような大きなしいの木がそびえています。そのしいの木は、上のほうでふたまたにわかれ、一方の枝が、ずっと横のほうにのびています。その太い枝に黒いつなをむすびつけ、つなのはじを大屋根までわたしておいて、四十面相はそれにすがって、とびおりたのです。

 すると、その黒いつなが大きなふりこになって、サアッと地面に近づいたかとおもうと、こんどは反対の方角へスウッとあがっていったのです。

 その方角に、淡谷邸の高いコンクリート(べい)があり、その外は、道路になっています。四十面相のこうもり男は、つながコンクリート塀の上にとどいた時、パッと手をはなして、塀の外へとびおりてしまいました。

 こうもり男は、一郎青年に化けるまえに、たびたび淡谷邸にしのびこんで、屋根の上にすがたをあらわしたり、庭から書斎の窓をのぞいたりしていたのですから、その時、ぶらんこの用意をしておいたのでしょう。

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