湯島詣

46話 白木の箱 四十六

1,127字 約2分 2018年11月4日 公開

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「さてはや、何でげすえ御到来物は。」と円輔は洋燈(ランプ)の方へ顔を突出し、源次は柱に天窓(あたま)を着けて片陰で仰向(あおむ)いた、この両人、胴中(どうなか)を入違いに、長火鉢の前で形がX《エッキス》。

「どうもお相伴を難有(ありがと)うございますよ。」と(むこう)へ坐ったのは、遣手(やりて)が老いたりという面構(つらがまえ)目肉(めじし)が落ちたのに美しく歯を染めている、胡麻塩天窓(ごましおあたま)、これが秘薬の服方(のみかた)煎法(せんぽう)堕胎(おろ)した後始末、体の養生まで一切取計(とりはから)った、口の臭い、お倉という(ばば)である。

 蝶吉は、(たしか)に小包を請取ったので、かくとは思い懸けず、慎みながら、若いから、今も今で、かねていいつけられて(たしな)んだ、花札(はな)を引いて、気の衰えるまで負けて帰ったので、済まなさも済まないし、嬉しさも嬉しければ、包んでも色に出る(きまり)の悪さ。震える手で(あかる)い処へ持出して、顔を見られまいと、傍目(わきめ)()らず、血の上った耳朶(みみたぶ)(あこ)うして、可愛らしく(かしこま)って、右見左見(とみこうみ)

「おやおや、大倭(やまとや)家内松山峰子様行と書いてあるねえ。」

「峰子様、よッ。」と懸声(かけごえ)をするは円輔なり。

()くッてよ、」と可愧(はずか)しそうに、打返してまた裏を見た。

「神月より、……おや、平時(いつも)の字と違ってやしなくッて?……何だか手が違ってるようだねえ。」

 あえて疑うというではないが、まさかと思う心から人にも、確めてもらいたいので、わざと不審(いぶかし)げに(つぶや)いた。

「わざッと手を替えてお書きなさいましたあね、そりゃ、お前さん。」と婆々は極めて鹿爪(しかつめ)らしい。

「そうねえ、何だか包が大きいわねえ、何だしら。」

 玉手箱という形で両手に据えながら目を(ねむ)る。

「何でげしょう。」

「何だか、」

「そうさね。」

「一番あてッこで、(ちょう)と出たらまた頂戴は、どうでげすえ。」

 源次は鷹揚(おうよう)に、

下司張(げすば)るな下司張るな。」

「どうせ(つま)らないものよ。」と蝶吉は笑いたそうにして押耐(おしこら)える。

 円輔は例に因って、

「よッ!」

「沢山おひゃらかして下さいな。」と怒ったのでも何でもない、いそいそ膝の上へ抱下(だきおろ)して(ななめ)にした。

 蝶吉は(かんざし)を抜いて、そっと持って、

「邪険に封をしてさ。」といいいい、名工が苦心の(まなこ)で、(みつ)めて、簪の(さき)で、封じ目を切って(ほど)く。

 上包はくるくると()いて、やまと新聞の一の面が(さっ)と膝の上に広がった。中は、中は、手文庫ばかりの白木の箱。

「さあさあ御覧(ごろう)じろ、封が(とけ)るに従うて、お蝶さんの、あの顔が段々(ゆる)んで来る処を、」

「どういう訳だか、不思議なもんさね、」と源次郎は憎体(にくてい)な。

(わたい)沢山だ。」

「何もお前さんそんなにつんとすることはないじゃありませんか、頬を膨らしてさ。」

「一生懸命でおいで遊ばす、さあ、(たま)らない。ほれ、」

「それ笑った。」

 蝶吉は莞爾(にっこり)して、

「御免なさい、」というかと思うと、引攫(ひっさら)うように小包を取って、(もすそ)を蹴返すと二階へ、ふい。

 驚いたのは円輔である。ぐんにゃりとなって、

(えら)い!」

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