おれは二十面相だ

2話 小林少年の冒険

2,302字 約5分 2018年10月21日 公開

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 明智探偵と小林少年は、松波博士のあんないで、古代研究所の大きなたてものにはいり、エジプトの部屋を、すみからすみまで、しらべましたが、秘密の出入り口などは、すこしもないことがわかりました。窓の鉄ごうしも、とりはずしたあとなど、まったくないのです。

 明智探偵は、一時間もかかってしらべ終わると、小林少年をそばへよんで、なにかひそひそとささやいていましたが、向こうに立っていた松波博士のところへいって、こんなことをいいました。

「松波さん、わたしは、巻き物ののろいなんて信じることができません。ひとつ、こんばん、実験をやってみたいと思いますが、どうでしょうか。」

「実験といいますと?」

「ここにいる小林君が、エジプトの部屋で、夜あかしをして、ためしてみたいというのです。小林君まで消えてしまってはたいへんですが、けっして、そんなことはおこらないとおもいます。ひとつ実験をさせてみようではありませんか。」

 それを聞くと、松波博士は、

「それは、きけんではありませんか。わたしは、小林君の身の上をうけあうことはできませんよ。」

「いや、わたしが責任をもちます。この小林君は、これまでにいろいろな事件で、いのちがけの冒険をやっていますから、だいじょうぶです。知恵もすばやくはたらきますし、力も強いのです。それに、わたしには、ちょっと、考えていることもありますから、けっして、あぶなくないようにします。」

 そうして、しばらく押し問答をしたあとで、いよいよ、小林君がたったひとりで、そのばん、エジプトの部屋で夜あかしをすることにきまりました。

 午後九時、小林少年はただひとりで研究所へやってきて、松波博士といっしょに、エジプトの部屋にはいりました。小使の赤井さんも、そこへついてきていました。

「赤井さん、外からドアに、かぎをかけてください。そうすれば、だれもはいってこられませんからね。かぎは赤井さんが、持っているきりなんでしょう。もし、あいかぎがあるのだったら、それも赤井さんが、持っていてください。」

 小林少年は、みんなが部屋を出ていくまえに、そういって、ねんをおしました。

 やがて、ふたりのおとなが出ていってしまい、ドアには、外からピチンとかぎがかけられました。

 小林君はこうして、エジプトの部屋に、とじこめられてしまったわけです。

 部屋のすみに、大きなデスクがあって、そのまえに、かわをはった回転いすがすえてあります。小林君はそのいすにかけて、ぐるっと、部屋の中を見まわしました。

 一方の(かべ)は、てんじょうまで本だなで、外国語の本がびっしりならんでいます。

 一方の壁には、大きなたながおいてあって、土の中からほり出した古代エジプトのいろいろのしなものや、その模造品(もぞうひん)などが、たくさんならべてあり、その前の小さいデスクの上に、銀のほそ長いはこにはいった、あの巻き物がおいてあります。また、一方の壁には、有名なエジプト学者の肖像画の油絵がかけてあり、その下に大きなミイラの棺がたてかけてあります。棺のふたが半分ひらいて、ミイラをつつんだ白いきれが、はみ出しているのです。その中に、まっ黒になった、がいこつのようなミイラが立っているのかと思うと、ゾーッとおそろしくなってきます。

 てんじょうからさがったまるい電灯が一つ、そのほかには、大デスクの上の、青いかさのある卓上電灯だけです。部屋がひろいので、それだけの光では、うすぐらくて、すみずみには黒いかげができています。

 窓の外は、まっ暗です。庭にしげっている木が、黒い魔物のように見えています。大デスクの上には、古い外国の本が、らんざつにつみあげられ、そのまえに、古い置き時計が、カチカチと時をきざんでいます。

 シーンと、しずまりかえって、遠くの大通りをはしる電車や自動車の音が、かすかに聞こえてくるほかには、なんのもの音もありません。

 だんだん夜がふけてきました。

 奇怪な巻き物ののろいはどんなあらわれかたをするのかわかりません。むこうの(しょう)デスクの上においてある、古くなって黒っぽくみえる、もようのある銀の箱、その中におさめてある二千数百年まえの、ふるいふるい巻き物、それがふしぎな魔力をもっていて、人間ひとりを消してしまったのです。

 小林少年は、その黒っぽい銀の箱を、じっと見つめていました。長いあいだ、そうして見つめていますと、ボーッと目がかすんできて、あたりがうすぐらくなり、銀の箱だけが、スポットライトをあてたように、白っぽく見えるのです。

「あっ! 動いた!」

 銀の箱が、スーッとうごいたのです。

 小林君は驚いて、見なおしました。目をこすって見なおしました。

 箱は、やっぱりもとの小テーブルのまんなかにあります。いまのは目のまよいだったのでしょうか。

 時計の針は十時をすぎ、十一時をすぎ、十二時にちかづいていました。じつに、長い長い時間でした。ひと月もたったかと思われるほどでした。

 小林君は、ときどきいすから立って、部屋の中をあるきまわりました。そして、またもとのいすにもどるのです。

 どこかでキーッと、みょうな音がしました。なんだかミイラの棺のふたが、動いたような気がします。ふたのあいだから、はみ出している白いきれが、風もないのに、かすかにゆれているではありませんか。

 さすがの小林少年も、だんだん、気味がわるくなってきました。うっかり目をそらしていると、うしろから、怪物がしのびよってくるような気がします。

 壁いっぱいの本だなの、本のあいだから、やせほそった人間の手が、ニューッと出てくるのではないかとおもうと、水をあびたように、背中がつめたくなってきました。

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