3話 やみの中の手
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パッ、パッ、パッ……、たった一つの電灯が、またたきをするように、消えたり、ついたりしました。
はじめは、ゆっくり、またたいていましたが、やがて、だんだんはやくなり、パチ、パチ、パチ……、ほんとうに、怪物がまたたきしているようです。
小林君は、おもわずいすから立ちあがって、身がまえをしました。おそろしい、ばけものでもあらわれてくるのではないかと、思ったからです。
電灯がまたたくたびに、部屋の中のいろいろなものが、動くような気がします。
むこうの壁に、たてかけてあるミイラの棺のふたが、半分ひらいて、そこから白いきれが、幕のようにあらわれています。ミイラの頭の上から、かぶせてあるきれが、はみ出しているのです。
その白いきれが、風もないのに、フワフワとゆれ動きました。
ミイラが、動き出したのでしょうか。いまにも、ああ、いまにも、黒いミイラが、あのふたを、もっとひらいて、こちらへ、歩き出してくるのではないでしょうか。
そればかりではありません。さっきは、本だなの本のあいだから、やせた手が出てくるようにおもいましたが、おなじような手が、あちらからも、こちらからも、ニューッ、ニューッとつき出してくるような気がするのです。
テーブルの下からも、ミイラの棺からも、たなにならべてある土人形や、つぼの中からも……。
電灯がパッときえるたびに、ちがったところから、その手が出てくるように思われるのです。
その手は、みんな、テーブルの上の巻き物の箱をねらっているようで、そのほうへグングンのびてくるのです。そのうちの一本の手は、一メートルも二メートルも長く長くのびて、いまにも、銀の箱にさわりそうになるのです。
むろん、ほんとうに手が出たわけではありません。電灯がパッパッとまたたくので、気のせいで、ありもしないものが見えたのです。
さすがの小林少年も、もう、がまんができなくなって、ドアのほうへ、走っていって、いきなり、ドアをドンドンとたたきました。
小使の赤井さんが、その音を聞けば、かぎをもって、ドアをあけにきてくれるだろうと思ったからです。
ところが、小林君がドアをたたきますと、まるで、それが、あいずででもあったように、パッと電灯がついて、そのまま消えなくなりました。またたきをやめてしまったのです。
電灯がつけば、もう、おそろしいまぼろしは見えないでしょう。小林君は、やっと安心して、もとのいすにこしかけました。
巻き物の銀の箱は、ちゃんと、テーブルの上にあります。
小林君は、その箱をじっと見つめて、身動きもしません。
もう、真夜中の一時でした。あたりは、いよいよ静まりかえり、世の中の生きものが、みんな死にたえて、小林君たったひとりになってしまったような、なんともいえないさびしさです。
これで、朝まで、ぶじにおわるのでしょうか。何か、ほんとうにおそろしいことが、これから、おこるのではないでしょうか。