5話 ドアの秘密
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博士が元のスイッチをいれたので、部屋の電灯がつきました。
「あっ、きみは小使の赤井君だなっ。」
白い怪物がさけびました。くみしいた黒い怪物のかぶっていたきれを、めくりとると、その下からあらわれたのは、黒背広をきた赤井の姿だったのです。
「明智さん、よくやってくださった。それじゃ、その赤井が、エジプトの経文を盗もうとしたのですね。」
部屋にはいってきた松波博士が、白い怪物に、声をかけました。
からだに白いきれをグルグルまきつけて、エジプトのミイラとそっくりの姿をした怪物が、じつは明智探偵だったのです。かれはその姿で、ミイラの箱の中にかくれて、わるものがやってくるのを、まちぶせしていたのです。
小林少年は、なにも知らされていなかったので、松波博士が、「明智さん。」とよびかけるのをきいて、びっくりしました。
「さては、明智先生は、松波博士と相談して、ぼくがエジプトの部屋にはいるまえに、ミイラの箱の中にかくれていたんだな。ぼくがそれを知っていると、そのことが、顔色にあらわれて、犯人を用心させるので、わざとしらせなかったのだろう。」
小林君は、とっさに、そこへ気がつきましたが、しかし、まだわからないことがあります。松波博士もおなじことをかんがえていたとみえて、そのとき、明智にむかって、こんなふうにたずねました。
「赤井が犯人なら、電灯の元のスイッチを、入れたりはずしたりできたし、また、この部屋のかぎをもっているのだから、しのびこむのも、ぞうさなかったわけです。しかし、まだ、わからないことがありますよ。きのう、大学生が、この部屋の中で、きえてしまった秘密です。明智さんには、あの秘密もわかっているのですか。」
明智探偵は、どこからか、ほそびきをとり出して、犯人赤井の手と足をしばった上、そこのいすにからだをくくりつけていましたが、それがおわると、こちらへ近づきながらこたえました。
「それは、わかっていました。昼間、この部屋をしらべたときに、その秘密を発見したのです。しかし、それをいってしまうと、犯人が用心して、経文をぬすみにこなくなるので、わざとだまっていたのです。そして、犯人をゆだんさせて、こんや、しのびこんでくるのを、まちぶせしたのです。こいつは、まんまと、そのわなにかかったわけですよ。」
「しかし、わたしには、まったくけんとうもつきませんなあ。いったい、どんな秘密があったのです。さしつかえなかったら、おしえてくださらんか。」
「かんたんなトリックですよ。こいつはもうにげられっこありませんから、警察を呼ぶ前に、その秘密をお見せしましょう。それでは、先生は、廊下のつきあたりの、あなたの研究室にはいって、ガラス窓から、このドアを見ていてください。小林君も先生といっしょに、見ていなさい。」
そこで、博士と小林少年は、廊下のつきあたりの博士の研究室にはいり、ガラス窓ごしに、エジプト室のドアを見はることになりました。そのガラス窓からエジプト室のドアまでは、十メートルほどへだたっているのです。廊下に電灯がついているので、ドアはよく見えます。
じっと見ていますと、廊下に出ていた明智探偵は、一度エジプト室へはいって、三十秒ほどすると、また廊下へ出てきました。そして、ドアをひらいたままにして、むこうをむいて、部屋の中をのぞいています。
すると、あっとおどろくようなことが、おこりました。
ドアの中にひとりの男が立っているではありませんか。犯人の赤井は、いすにくくりつけられているのですから、そんなところへ、出てこられるはずはありません。すると、あれは何者でしょう。部屋の中へ、ひょっこり、ひとりの男がわきだしたのです。
きのうは、大学生が、消えてしまいましたが、こんやは、そのぎゃくに、なんにもないところから、ひとりの人間があらわれたのです。
明智探偵は、その男と、しばらくひそひそと話していましたが、こちらをむいて、うなずいてみせると、そのまま、部屋の中にはいって、中からドアをしめました。
博士と小林君は、それを見ると、じっとしていられなくなって、研究室を出て、エジプト室のほうへいそぎました。
すると、明智探偵は、またドアをあけて、ふたりを部屋の中へ、むかえいれながら、
「たしかに男が立っていたでしょう。ところが、ごらんなさい。部屋の中には、赤井君のほかには、だれもいないのです。」
といって、にこにこわらっています。
部屋のむこうのすみには、赤井がいすにしばられたまま、こわい顔で、こちらをにらんでいました。
「まさか、いまのは赤井だったのではないでしょうね。」
博士がふしぎそうにいいました。
「そうじゃありません。いくら手ばやくやっても、あのほそびきをといて、またもとのようにしばる時間はなかったですよ。赤井ではない人間が、あらわれたのです。」
「そして、その人はどこへいったのです。」
「消えてしまったのです。きのうの大学生のようにね。」
「わかりませんなあ。じつにふしぎだ。こんなばかなことがあるはずはない。」
博士はこまったような顔をして、きょろきょろと、あたりを見まわすのでした。
「ハハハハ……、なんでもないことですよ。これをごらんなさい。」
明智探偵はそういって、ドアのそばへ近づきました。
では、このドアに、秘密の種がかくされているのでしょうか。そうだとすれば、いったい、どんな秘密なのでしょう。読者のみなさん、つぎを読むまえに、ちょっと考えてみてください。