おれは二十面相だ

5話 ドアの秘密

2,239字 約4分 2018年10月21日 公開

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 博士が元のスイッチをいれたので、部屋の電灯がつきました。

「あっ、きみは小使の赤井君だなっ。」

 白い怪物がさけびました。くみしいた黒い怪物のかぶっていたきれを、めくりとると、その下からあらわれたのは、黒背広をきた赤井の姿だったのです。

「明智さん、よくやってくださった。それじゃ、その赤井が、エジプトの経文を盗もうとしたのですね。」

 部屋にはいってきた松波博士が、白い怪物に、声をかけました。

 からだに白いきれをグルグルまきつけて、エジプトのミイラとそっくりの姿をした怪物が、じつは明智探偵だったのです。かれはその姿で、ミイラの箱の中にかくれて、わるものがやってくるのを、まちぶせしていたのです。

 小林少年は、なにも知らされていなかったので、松波博士が、「明智さん。」とよびかけるのをきいて、びっくりしました。

「さては、明智先生は、松波博士と相談して、ぼくがエジプトの部屋にはいるまえに、ミイラの箱の中にかくれていたんだな。ぼくがそれを知っていると、そのことが、顔色にあらわれて、犯人を用心させるので、わざとしらせなかったのだろう。」

 小林君は、とっさに、そこへ気がつきましたが、しかし、まだわからないことがあります。松波博士もおなじことをかんがえていたとみえて、そのとき、明智にむかって、こんなふうにたずねました。

「赤井が犯人なら、電灯の元のスイッチを、入れたりはずしたりできたし、また、この部屋のかぎをもっているのだから、しのびこむのも、ぞうさなかったわけです。しかし、まだ、わからないことがありますよ。きのう、大学生が、この部屋の中で、きえてしまった秘密です。明智さんには、あの秘密もわかっているのですか。」

 明智探偵は、どこからか、ほそびきをとり出して、犯人赤井の手と足をしばった上、そこのいすにからだをくくりつけていましたが、それがおわると、こちらへ近づきながらこたえました。

「それは、わかっていました。昼間、この部屋をしらべたときに、その秘密を発見したのです。しかし、それをいってしまうと、犯人が用心して、経文をぬすみにこなくなるので、わざとだまっていたのです。そして、犯人をゆだんさせて、こんや、しのびこんでくるのを、まちぶせしたのです。こいつは、まんまと、そのわなにかかったわけですよ。」

「しかし、わたしには、まったくけんとうもつきませんなあ。いったい、どんな秘密があったのです。さしつかえなかったら、おしえてくださらんか。」

「かんたんなトリックですよ。こいつはもうにげられっこありませんから、警察を呼ぶ前に、その秘密をお見せしましょう。それでは、先生は、廊下のつきあたりの、あなたの研究室にはいって、ガラス窓から、このドアを見ていてください。小林君も先生といっしょに、見ていなさい。」

 そこで、博士と小林少年は、廊下のつきあたりの博士の研究室にはいり、ガラス窓ごしに、エジプト室のドアを見はることになりました。そのガラス窓からエジプト室のドアまでは、十メートルほどへだたっているのです。廊下に電灯がついているので、ドアはよく見えます。

 じっと見ていますと、廊下に出ていた明智探偵は、一度エジプト室へはいって、三十秒ほどすると、また廊下へ出てきました。そして、ドアをひらいたままにして、むこうをむいて、部屋の中をのぞいています。

 すると、あっとおどろくようなことが、おこりました。

 ドアの中にひとりの男が立っているではありませんか。犯人の赤井は、いすにくくりつけられているのですから、そんなところへ、出てこられるはずはありません。すると、あれは何者でしょう。部屋の中へ、ひょっこり、ひとりの男がわきだしたのです。

 きのうは、大学生が、消えてしまいましたが、こんやは、そのぎゃくに、なんにもないところから、ひとりの人間があらわれたのです。

 明智探偵は、その男と、しばらくひそひそと話していましたが、こちらをむいて、うなずいてみせると、そのまま、部屋の中にはいって、中からドアをしめました。

 博士と小林君は、それを見ると、じっとしていられなくなって、研究室を出て、エジプト室のほうへいそぎました。

 すると、明智探偵は、またドアをあけて、ふたりを部屋の中へ、むかえいれながら、

「たしかに男が立っていたでしょう。ところが、ごらんなさい。部屋の中には、赤井君のほかには、だれもいないのです。」

といって、にこにこわらっています。

 部屋のむこうのすみには、赤井がいすにしばられたまま、こわい顔で、こちらをにらんでいました。

「まさか、いまのは赤井だったのではないでしょうね。」

 博士がふしぎそうにいいました。

「そうじゃありません。いくら手ばやくやっても、あのほそびきをといて、またもとのようにしばる時間はなかったですよ。赤井ではない人間が、あらわれたのです。」

「そして、その人はどこへいったのです。」

「消えてしまったのです。きのうの大学生のようにね。」

「わかりませんなあ。じつにふしぎだ。こんなばかなことがあるはずはない。」

 博士はこまったような顔をして、きょろきょろと、あたりを見まわすのでした。

「ハハハハ……、なんでもないことですよ。これをごらんなさい。」

 明智探偵はそういって、ドアのそばへ近づきました。

 では、このドアに、秘密の種がかくされているのでしょうか。そうだとすれば、いったい、どんな秘密なのでしょう。読者のみなさん、つぎを読むまえに、ちょっと考えてみてください。

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